写真・文/神 咲子(在ストックホルムコーディネーター)
スウェーデンも読書好きの国だ。冬は長く家にこもり本を開く時間もあるし、ノーベル文学賞の生みの国とあって文学に無関心なんて間違っても言えない。毎年9月下旬に4日間にわたってスウェーデン第2の都市、ヨーテボリで行われるブックフェアは北欧最大で大盛況だ。さらに、贅沢品や外食、酒、タバコ、ガソリンなどには25%もかかる消費税が、本にはわずか6%しかかからず優遇されている。
先に挙げたノーベル文学賞、スウェーデン人初で女性初の受賞者はセルマ・ラーゲルレーヴだった。日本のテレビで放映されていて、私が幼い頃に首ったけだった『ニルスのふしぎな旅』の原作者だ。このアニメーションは、スウェーデンの国民学校教員協会の読本作成委員会が、スウェーデンの子どもたちが自国の地理を楽しく学べるようにラーゲルーヴに執筆を依頼、国内を取材して回り出来上がった教科書のような児童書が基になっている。だが、スウェーデンの児童書といえば、やはり世界的にも有名なアストリッド・リンドグレーン作『長くつ下のピッピ』が代表だろう。
そんなスウェーデンという国の首都、ストックホルムには、特筆すべき児童書の専門店があるので紹介しよう。
スウェーデン最大の児童書店というだけある広い店内。かけっこする子どもたちが目に浮かぶ。
まず、スウェーデンでいちばん大きな児童書専門店、ユニバッケン。ここは書店というより、アストリッド・リンドグレーンの世界を表現した、子どもから大人まで一緒に楽しめる屋内娯楽施設だ。リンドグレーンの作品に基づいた芝居や歌などのイベントをはじめ、おとぎ話に出てくるようなシーンを実体験できたり、子どもに限らずリンドグレーンファンにはたまらない場所だ。
アストリッド・リンドグレーンのコーナー以外に、ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンのコーナーなども。
お土産のマストアイテムは、ピッピの長くつ下(?)。
店内でも外でも遊べて、一日中ここで過ごせる。
もう一軒は、若者に人気のセーデルマルム地区にある書店、ボークスルーカレン(本を貪る人という意味)。ここは、併設のカフェで本にちなんだお菓子が提供されていておもしろい。たとえば、バールブロー・リンドグレン作『ロランガ』。お父さんのロランガ、おじいさんのダッタヤング、そして息子のマサリンの変わった日常の物語だが、息子の名の由来になっている、アーモンドペーストを使ったスウェーデン伝統の焼き菓子が食べられる。また、映画にもなった『チャーリーとチョコレート工場』に出てくるようなチョコレートマフィンなど、手作り感たっぷりのお菓子でお茶の時間が楽しめる。また、本以外におもちゃや絵かき道具なども売られており、なかなかファンシーな世界なので、童話の中に入り込んだように時間を忘れてしまう。
ゴリラが目印のボークスルーカレンの入口。天気がいい日はゴリラの隣に座ってフィーカ(お茶の時間)をどうぞ。
ボークスルーカレンのカフェコーナーで、手作り感あふれるマサリンとチョコレートマフィンを。
おもちゃや文具の販売コーナー。大人のカップルがノスタルジーに浸って長居をしていた。
ボークスルーカレンもユニバッケンも、ただ本を販売しているだけではなく、大人も本を通して童心に返り楽しめる場所である。それが、スウェーデンの活字離れに歯止めをかけ、本の人気を維持している所以でもあるのだろう。
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photos et texte : SAKIKO JIN