文・写真/松本幸子(在バンコクコーディネーター)
タイでは、毎年11月の満月の夜にロイクラトン(灯籠流し)というお祭りがある。今年は少し日がずれて、満月は10月31日だった。なんとなくロイクラトンが来ると雨季も終わりという認識をしていたが、今年は満月が早いせいか、雨季が完全に終わる前のため、この日も日中は雨であった。なんとか夕方には雨が上がり、満月は顔を見せなかったものの、この日を待ち望んでいた人々は夕方から街に繰り出していた。
都会の中のベンジャシリ公園の池はクラトンのロウソクの光が美しい。
今年はコロナの影響で多くの人が集まるのがよしとされないこともあり、例年よりもずいぶんと人出が少なかったようだ。私はここ数年、家からほど近いバンコク中心部のBTSプロンポン駅そば、ベンジャシリ公園の池にロイクラトンに出かけている。例年だったら駅から公園までの行列で身動きが取れないほどなのだが、今年は少し混み合っていたものの、公園の中は人も少なくスムースに灯籠を流すことができた。
ロイクラトンの由来は、13世紀のスコータイ王朝時代に遡る。水源となる川によって、農耕に適した豊かな大地が育まれたと言われており、その時代の王妃が、川からの恵みに対して、川の女神プラメーコンカへの感謝を捧げるためにバナナの葉でハスの花をかたどったクラトン(灯籠)をロイ(川に流した)のが始まりとされている。以降、毎年陰暦12月(新暦10〜11月ごろ)の満月の夜に、この行事が行われることになった。とても歴史あるお祭りだ。いまでも、川にクラトンを流す地域では特に大勢の人が集まり、いろいろなパレードが行われ花火などの催しも行われる、タイ人がもっとも楽しみにしているお祭りでもある。
公園の入り口には、出店でさまざまなクラトンが売られている。基本のクラトンは、バナナの幹をカットしたものにバナナの葉をハスの花を見立てて飾り付けていき、好みの花を綺麗に足して、ロウソクと線香を中心に差しこめば完成。地方は自家製のクラトンを作る人も多いが、バンコクの都会では市販のものを購入する人が多い。
作る人によってさまざまな形のものがあるのだが、バンコク郊外から売りに来たというおばちゃんのものがシンプルで50バーツ(約¥170)と安かったので買うことにした。そして、おばちゃんにロウソクと線香に火をつけてとお願いしてそっと大事に持っていった。
最近は、パン生地やアイスクリームのカップで作ったクラトンも登場し、どんどん派手になってきているようだ。確かにパン生地なら水に溶けて魚の餌になるから、エコなのかもしれない。数年前からクラトンの公害も問題視されてきているので、自然に還る素材が推奨されていることもあり、発泡スチロールで作ったクラトンは見かけなくなった。
こちらはパン生地のクラトン。この大きさで50バーツ。
流行りのアイスクリームカップで作られた斬新なクラトン。魚の餌になるのでエコで良いとされている。
タイ衣装で着飾った女の子。みんなこの日だけはおめかししてお祭りに臨む。
池へロイをすると、私は手を合わせ、早くコロナが収束して平和な日常が戻りますようにと願ったのだった。本来は川の恵みに感謝であるが、みな願い事をするようになっているので、私もつい願い事をしてしまった。まわりでは小さい子どもたちがタイ伝統の衣装で着飾って家族でロイクラトンを楽しんでいる風景も。ロイクラトンは外国人にも人気のお祭りで、誰でも気軽に参加できることから、バンコク在住日本人の家族の姿も多い。この時期に観光でタイを訪れることがあれば、ぜひ川辺に行ってロイクラトンをするのをおすすめする。川ではロイクラトン専用の船も出たり、タイの文化を体験する良い機会になること間違いなしだ。
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photos et texte:SACHIKO MATSUMOTO (CHICO DESIGN)