写真・文/神 咲子(在ストックホルムコーディネーター)
宗教心の強くないスウェーデン人も、諸聖人の日だけは歴史のある厳かな日として大切にしている祝日だ。中世からただの一度も中断されることもなく長く続いている祝日なのもうなずける。
例年の諸聖人の日。とても美しく、この日ばかりは静寂を満喫する。photo : Susanne Hallmann
ストックホルム郊外にあり、ユネスコ世界遺産にもなっている「森の墓地」(Skogskyrkogården/スコーグスシュルコゴーデン) 。ここは、北欧モダン建築の父として有名なエリック・グンナル・アスプルンドとシーグルド・レーヴェレンツのふたりによって設計された、国内最大規模の埋葬地のひとつだ。通年、墓地内の散策は自由だが、火葬場内と礼拝堂内は唯一「諸聖人の日」にしか一般公開されない。
そもそも諸聖人の日(古くは万聖節)とは。すべての聖人と殉教者を記念するカトリック教会の祝日で、典礼暦では11月1日がそれに当たる。だがスウェーデンでは、10月31日から11月6日までの間の土曜日がその日とされ、教会や墓地でキャンドルを灯して故人を偲ぶ日となっている。ちなみに、2020年は10月31日の土曜日であった。
毎年、この日のみ一般公開される森の墓地の礼拝堂(チャペル)はかなり人で賑わうのだが、今年はコロナの影響で入場禁止、墓地を訪れる人たちも期間中に分散して来訪するよう呼びかけられたため、例年になく静かな一日だった。
アスプルンド設計の森の礼拝堂。火葬場内の天井をも貫く円柱とともに、高くそびえる松の樹は復活を意味する。生命循環の象徴のひとつだ。
レーヴェレンツが構想したニレの木が立つ瞑想の丘。
入り口を通り抜けてすぐに目に入るのが、巨大な花崗岩でできた十字架とその右手に立つニレの木のある瞑想の丘。十字架の左側に位置する火葬場で故人を弔うという悲しく暗い行為から、陽の光の当たる場所に戻れるように火葬場背後の大きな壁は葬儀の後で開くことができ、直接その場から外に出られるようになっている。火葬場内の高い円柱(復活の象徴)や、出てすぐに見える十字架の地平線上にある瞑想の丘、それらを映し出す中央の泉。アスプルンドがここを建てるにあたって考え抜いた生命の循環システム「生・死・生」が表現されている。森の墓地は、キリスト教の象徴だけでもなく、どの宗派のためのものでもない、すべての人の憩いの場所と考えられている。
誰でも訪れることができるので、いつか機会があれば、一年に一度のこの日にぜひ出かけてみるといい。
火葬場の外壁。中心の黒い柵が開閉され、葬儀後は外の光へと導かれる。
森の墓地の公式サイトでは、チャペル内のパノラマフォトが公開されている。「Om Platsen(場所について)」のページの「Se dig om i kapellen(礼拝堂を見る)」からアクセスを。
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photos et texte : SAKIKO JIN