世界は愉快:秋のお祭り編 from LA おちゃめな骸骨とマリーゴールドで祝う、LA流鮮やかな「死者の日」。

世界は愉快 2020.11.20

文/稲石千奈美(在LAカルチャーコレスポンダント)

毎年ハロウィンと時季を重ねて、ロサンゼルスでも盛大なお祝いとなる「死者の日(Dia de los Muertos)」は、1年に一度故人の霊を偲ぶいわばメキシコ版お盆で、メキシコや中米移民コミュニティの伝統行事が広まったものだ。映画『リメンバー・ミー』や『007 スペクター』で、日本にもカラフルな祭壇や愛らしい骸骨キャラクターの行事が紹介されているとおり、死者の日とはいえ悲嘆感はなく、「故人のみなさま、お帰りなさい。束の間ですが、一緒に楽しみましょう!」と明るいおもてなしモードなのが特徴。死者が戻るのは毎年11月1日と2日で、10月の終わりになるとメキシコからの移民が多いロサンゼルスでは、街のあちこちでお祝いの準備がスタートする。

201113_DTLA IMG_02981.jpg毎年恒例、グランドパークの「ダウンタウン死者の日フェス」を代表するコミュニティオフレンダから、祭壇づくりの名人としてリスペクトされるオフィーリア・エスパルザの作品。photo:BEAU RYAN

まず、ファーマーズマーケットや路上で販売が始まる大ぶりのマリーゴールド。イエローやオレンジが鮮やかなメキシコ原産の花は、冥界と現世を繋ぐ道になると言われ、墓地やオフレンダ(祭壇)をカラフルに飾る死者の日の象徴だが、ここロサンゼルスではオレンジ色に染まるハロウィンとのペアリングで、死者の日を祝わない人も買っていく。

オフレンダは家庭や街角、広場や教会などに期間限定で設置される祭壇で、マリーゴールドのほか、おちゃめにデコされた骸骨(カラべラス)や故人の写真、好物の食べ物や飲み物(テキーラをよく見かけるのもお国柄)、ゆかりの物品などが供えられる。そして何しろカラフル! 骸骨といえど華麗な花模様のメイクを施され、ソンブレロをかぶったギター奏者もいれば、民族衣装のダンサーもいるし、マリーゴールドと棚のスペースを競うように多くの品々がお供えされる。

la.png同じくグランドパークに設置されたコラソン・デル・プエブラとソチル・パロメラによる「死の儀式」と題されたオフレンダは、性的暴力により亡くなった女性や子どもたちを祀る(写真左)。御供物は母なる大地を守り、女性や原住民文化を保護して、性差別や民族差別のない社会を願うもの。故人の写真、カラフルでキャラクターあふれる骸骨たち、マリーゴールドなど手作り感たっぷりのオフレンダ(右)。photos : UMA

例年ならイーストLAやダウンタウンをはじめ、街中で大型イベントが行われるのだが、まだコロナ規制が厳しく、コミュニティが集うことのできない今年は、多くがキャンセルになったり、ヴァーチャルへ移行した。ヴァーチャルイベントでは墓地から人形劇やメキシコの伝統音楽パフォーマンスをストリーミング、書店からは英語とスペイン語でストーリータイム、インスタライブではカラベラスメイクレッスンなど多彩なプログラムが。いっぽうダウンタウンのグランドパークには、例年どおりアーティストやコミュニティグループによるオフレンダが設置された。華やかながら、新型コロナウイルスや構造的人種差別、移民問題など時世を反映したロサンゼルスらしいオフレンダにはオーディオガイドも用意され、制作の背景を聞きながら祈りを捧げることができた。

breads.png本格派メキシカンベーカリーまで足を延ばして購入した死者のパン。今年は典型的な丸パンのほか、人の顔より大きいピンクの骸骨パンもゲット。激甘に見えるが、ほんのりとしたやさしい甘さだ。photo:UMA

死者の日の代表的なお供えのひとつが「死者のパン」だ。オレンジとアニスをほのかに香らせたふわっと甘い砂糖がけの菓子パンで、クロスボーンや十字架、骸骨がモチーフ。砂糖で作ったカラベラスとともに、メキシコ系ベーカリーで購入する。また時間をかけてスパイスや唐辛子、ときにはチョコレートもすり鉢で丁寧に擦って作るモレソースもこのお祝いで食べる伝統料理だ。パンやモレなど時期限定アイテムはどこがおいしいか下調べも楽しみのうちだが、コロナ禍の今年は、人気メキシカンレストランGuelaguetzaのシェフと一緒にオアハカ地方の伝統的なモレソースチキンを作るウェビナーに参加した。すり鉢でゴリゴリ潰したスパイスをさらに煮込み、トマトや玉ネギと一緒にフードプロセッサーでグウォーンと延々に撹拌し続け、あまりの騒音にシェフの赤ちゃんが昼寝から起きてしまって大泣きするというハプニングも。

201113_DTLA IMG_0298.jpgUCLAファウラーミュージアムではモレソースが有名なオアハカ料理のシェフ、ブリシア・ロペスを招き、死者の日を祝う料理教室ウェビナーを開催。質問が飛び交った当日のレッスンには世界各地から約150名が参加した。

準備期間から亡き人を偲び、カラフルなデコレーションと特別な食事で楽しく過ごす死者の日のお祝いは、大ヒット映画の貢献もあってか、すっかりロサンゼルスにも季節行事として定着している。いろんな文化が共存するロサンゼルスに住んでいてよかったと思える、実はハロウィンよりずっと好きな祝日だ。

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texte : CHINAMI INAISHI

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