文/甲斐美也子(在香港ジャーナリスト、編集者、コーディネーター)
日本では、女性から男性にチョコレートを渡すバレンタインデーは、香港では男性が妻や恋人に花を贈りごちそうをする日。バレンタインデーの夜の地下鉄では花束を抱えてディナーに出かける男性に加え、花束を抱えたお父さんと子どもたちが家路に着く姿も見かけて、お母さん良かったね、とほほえましく感じたりする。
いっぽうバレンタインデー当日に、彼から豪華な花束を日中の勤務先に配達してもらい、同僚たちを脇目に受け取るのが香港女性のあるべき姿である。なかには、シングルの女性が自分で花を注文して、わざわざ会社に送ることも珍しくないとか。「バレンタインが週末じゃ意味がない」というセリフも耳にしたこともある。残念ながら在宅勤務が広がった2021年のバレンタインは、そんなマウント合戦もひとまず休戦だ。
ミシュラン2つ星の女性シェフよる、バレンタインの提案。
通常ならバレンタインディナーで賑わう香港の夜だが、いまはコロナ禍による規制で飲食店の営業は18時以降禁止。そんな中、店側はテイクアウト向きのメニュー開発や、容器の保温性や環境への配慮など各段に向上させている。高級店ほど食体験を再現するハードルが高いといえるが、先日、女性シェフとしてアジア初のミシュラン二つ星を獲得したヴィッキー・ラウさん率いるテイト・ダイニングルームは例外。そのテイクアウトセットは話題を集めている。
実はフィガロジャポンとも縁が深く、2012年10月号の香港特集で正式オープン直前に取材させてもらったことがある。フレンチをベースに、香港ゆかりの食材や文化を巧みに融合させたオリジナリティあふれる料理は、女性らしさを隠そうという発想はないと本人が断言するほどの麗しさ。
テイト・ダイニングルームを率いる才能豊かな女性シェフ、ヴィッキー・ラウさん。
幻想的でモダンなインテリアは、家具までシェフ自らがデザイン!
スイーツはフレンチ風ながら、ナツメや黒ごまなどの中国食材が巧みに使われている。そんなテイクアウト用のスイーツのほか、デリバリーに使うカトラリーなども販売するデイト・バイ・テイトというショップもオープン。
バレンタインを前に、このセットを我が家で試食する機会をいただいた。高級感あるボックスを一段ずつ開けていくのは、コース料理を次々とサーブされる時のワクワク感に近い。箱や中の皿は直接テーブルに置けるデザインなので、盛りつけ直す必要がない。
こちらがバレンタイン限定の1人前コースが入った3段ボックス。ひとり1,280香港ドルで2人前から注文可能。容器は翌日スタッフが回収に来る。
自宅に届けられたガストロノミー・ボックス。小皿には少しのシワもなくラップが貼られている。こちらは前菜4品。手前左からキャビアとニューカレドニア産のオブシブルー海老の紫カリフラワークリーム添え、ウナギの燻製パイ。photo: MIYAKO KAI
食べる順番や必要に応じた再加熱の方法などが細やかに書かれた、懇切丁寧な説明書に感心。間違いなく美味しさと優雅さを届けたいシェフの気持ちがあふれている。photo: MIYAKO KAI
「最高級の新鮮食材を使いながら、食べるまでの時間が空いても傷まず、再加熱した時に味や食感が落ちないように知恵を絞ったわ」とヴィッキーさん。テーブルセッティングも思い切り凝れば、非日常的なバレンタイン・ディナーにできそうだ。
マイハニーに贈る、優美なバレンタインボックス。
ヴィッキーさんによるバレンタイン用ギフトセットも秀逸。見事な花束と一緒に、愛する人を「ハニー」と呼ぶことにちなんで、主役は香港産の蜂蜜だ。ブルガリアローズを浸した優雅な蜂蜜を香水瓶のような容器に入れ、蜂蜜のフィナンシェやカモマイルとハニーキャラメルのミルクチョコレートなどが揃えられている。
2月13日~15日配達限定のバレンタインデー・ギフトセット。2,600香港ドル。
愛する人から贈られるのは格別だけれども、たとえ在宅勤務で誰も見ていなくたっていい。作り手の愛情がたっぷりこもったこのセットは、自分に贈ってもとびきり幸せな気分になれること確実だ。
texte:MIYAKO KAI