文/稲石千奈美(在LAカルチャーコレスポンダント)
年間を通して温暖で過ごしやすい気候という印象の南カリフォルニアだが、住んでみるとユニークな四季折々が体感できる。乾燥気候ながら例年雨が降るのは冬で、冬の雨量や積雪が続く季節に大きな影響を持つのも事実。雨が少なければ水不足や極度の乾燥による山火事への不安もあるが、「もっと降れ、もっと降れ」と願う理由のひとつは春の風物詩である砂漠地帯のワイルドフラワーで、砂漠の花たちが盛大に咲くか否かも冬の気候が大きく影響しているからだ。
アンタロープヴァレーポピー保護地区の春。いつもなら乾燥し干からびたダスティブラウンの砂漠が、春の短期間だけ見事な百花繚乱の佳景となる。photo:City of Lancaster
フォルニアの州花であるカリフォルニアポピーは春のワイルドフラワーの代表格。ロサンゼルス北東部の郊外にあるアンタロープヴァレーポピー保護区はなだらかに続く丘陵地一面が春の開花時には眩いオレンジの花で埋め尽くされる。通常満開は4月だが、早ければ3月から、遅い年は5月でもみることができる。ここでは絶対にゴミを出したり、原生地を荒さないことが鉄則だ。一方、保護区に隣接するランキャスター市では例年ポピーフェスティバルが開催され、花見とともに音楽やお祭り気分を楽しむ人も多い。(今年は昨年に続き、コロナ禍のため中止)
さらに、ロサンゼルスから2〜3時間のドライブで楽しめるジョシュアツリー国立公園、アンゾボレゴ州立公園などではいつもは乾燥しているからこそ絶景の砂漠や岩場が、春になるとオレンジ、ピンク、パープルなどの野生の花々で彩られる。厳しい自然環境で春の短い期間だけ芽吹き、花を咲かせるのは野生の、小さな小さな植物たちなのだが、一斉に花咲く光景は、広大で突き放すように強気な自然の中で息をのむほど美しい。公園内のドライブスルーも可能だが、できれば車を停めて、ハイキングやキャンプで堪能したい。
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近年、2019年と2017年にはスーパーブルームと呼ばれる現象があり、文字通り超級数のワイルドフラワーの開花があり、春の砂漠を果てしなくビビッドカラーに染めた。スーパーブルームは秋の終わりから冬にかけての十分な降雨量と涼しい日中・冷え込む夜間という気温条件が整った時にのみ起こるため、降雨量の少なかった今年は残念ながら期待できない。10年に1度と言われてきた現象なのだから、欲張ってはいけないのだが、スーパーブルームを目撃したカリフォルニア住民たちは、奇跡を信じている。
枯れた砂漠が一変する光景は目を疑うほど。ワイルドフラワーはオレンジのポピーのほか薄青色のルピナス、黄色のデザートサンフラワー、白いデザートベルなどで、ほかにもヤッカやサボテンなど砂漠植物の常連たちも花を咲かせる。photo:City of Lancaster
とはいえ、スーパーブルームでなくてもワイルドフラワーの見応えは十分で、毎年カリフォルニアの住人たちは州立公園やセオドア・ペイン財団、ポピー保護区のライブCAMなどの開花状況をこまめに調べて、開花情報と混雑状況を睨めっこしながら花見の計画を立てる。今年はそろそろ、4月の新月のタイミングで、ワイルドフラワーと砂漠の星空のダブル狙いを計画中。
texte:CHINAMI INAISHI