写真・文/坂本みゆき(在イギリスライター)
イギリスの週末の新聞や大手スーパー発行のフリーペーパーには、必ずと言っていいほどガーデニングのページがある。それを見るたびに、ああやっぱりこの国の人たちの多くは庭仕事が大好きなんだなあとつくづく感じる。
季節に合わせた植物のお手入れ法や素敵な庭造りのヒントなどが満載。魅力的な写真が並び、見ているだけでも楽しめる。
日曜大工で家に手を入れるのと同様、庭に好みの植物を植えて花や果実、野菜が育っていくのを見守るという、コツコツやって成果を出す作業に楽しみを見いだすのは国民性なのかもしれない。ちなみに昨年、最初のロックダウン後の緩和の際にガーデンセンターとホームセンターは食材店や薬局以外でまっ先に営業可能となっていた。
ガーデンセンターの植物はまだ蕾さえつけていないものが大多数ながらも、ラベルの写真を見て花を想像しながら選ぶのも楽しい。
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5月に入ってようやく暖かな日々がやってこようとしているいま、ガーデンセンターの店頭には花や野菜の苗が所狭しと並んでいる。やってきた人たちは、それらを大量に買っては車のトランクをいっぱいにして帰っていく。
イギリス人が大好きな「枝豆」の苗も。「Grow Your Own」は、ガーデナーたちのマントラともいえる。
みんな大きな庭があるのかというと、必ずしもそうとは限らない。イギリスにはアロットメントでガーデニングを楽しんでいる人も少なくないのだ。
アロットメントとは市民に貸し出す、商業目的以外の小型農地のこと。いわゆる家庭菜園のための場所だ。たいがいどこの町にもあって各行政区が管理していることが多い。大きな土地を小さく区切った一角で、人々は思い思いに花や野菜を育てる。
アロットメントの区画の大きさは場所によってまちまちだが、5m四方程度でレンタル料は年間20~40ポンドほど。ひと家族でいくつもの区画を借りている人もいる。いまはまだ時期が早くてネギとハーブくらいしか植えられてないものの、夏になれば色とりどりの花や野菜でいっぱいになる。
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その歴史は古く、すでに18世紀には人々に親しまれていたという。さらには1908年には行政区は住民に家庭菜園用の農地を貸しだす義務があると法律でも決められている。私の住む町にはふたつのアロットメントがあるが、ひとつは1898年、もうひとつは1915年からの歴史を誇っている。
借り手は土地の大半をきちんと有効活用すること、雑草などを増やさないように手入れを怠らないことなど、なかなか厳しいルールがあるが定番的人気を誇る。ロンドンなどの都市部では長いウェイティングリストができていて、10年は待つと言われているところもあるとか。
植える植物やレイアウトなど、借り手の個性が見え隠れする。
さらに昨年のロックダウン中は気軽に買い物に行けなかったことも手伝って、自分たちで野菜を育てることが見直されて人気に。それを受けて庭やアロットメントの貸し手と借り手のマッチングアプリ「アロット・ミー」が注目を集めた。これを使えばウェイティングリストの順番がこなくても、アロットメントや野菜作りに適した場所が借りられるかもしれないからだ。
豊かな自然に囲まれている時間を持つことは、心と身体に安らぎを与えてくれると学術的に証明されている。さらにおいしい収穫も得られるのであれば、喜びは倍増のはず。その楽しさから抜け出せなくて、イギリス人は今日もアロットメントを耕し続けているのかもしれない。
photos et texte:MIYUKI SAKAMOTO