写真・文/甲斐美也子(在香港ジャーナリスト、編集者、コーディネーター)
地価の高さで世界トップクラスの香港は、とにかく家が狭く、基本は集合住宅。本格的なガーデニングをするにはかなり郊外に住むしかないが、運が良ければベランダで、たいていは出窓に鉢植えを置くぐらいの規模になる。
とはいえ、それでもそれなりに楽しめるのが香港のいいところ。下町エリアである太子駅から近いフラワーマーケットは、香港中の生花店はもちろん老若男女のあらゆる人が、切り花、鉢植え、ガーデニング用品などを買いに来ており、目の保養になる散歩スポットとしても人気が高い。
さまざまなガーデニングショップが立ち並び、通りにも鉢植えや切り花が置かれているフラワーマーケット。
マーケットと言っても、実際には花墟道(ファーフォイドウ)という道を中心に、市街地の数ブロックにわたって路面に専門店が延々と並んでいる。お祝い事に贈られる蘭はまさにここの主役で、色、大きさ、立派さにも驚くほどバリエーションがある。
華やかな蘭はフラワーマーケットのいたるところで販売されている。
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出窓ガーデナーに人気が高いのが、あちこちのショップ前に並ぶハーブ類。バジル、ミント、タイム、ローズマリーなど、おなじみのハーブが並ぶ中、最近新顔を見かけるようになった。
4月には気温が30℃を超える日が出てきて、5月はすでに夏になっている香港では、日本よりも蚊が出てくるのも早く、すでに窓から入って来た蚊に悩まされ始めている。そこで需要が高まっているのが「駆蚊草」。日本では「蚊連草」と呼ばれているゼラニウムの一種で、蚊が嫌う成分が強まるように異種交配して作られた植物だとか。
フラワーマーケットでよく売られるようになった駆蚊草(写真右上)。
実際に鉢に寄せ植えしてみると、あまり世話をしなくてもずいぶんたくましく育ち、そばによると強めの香りが漂う。たまたまかもしれないが、最近確かに家には蚊がいなくなった気がするから効き目はあるようだ。
駆蚊草よりも過激な、ウツボカズラなどの食虫植物もフラワーマーケットの定番。
南国らしい食中植物も、香港ではおなじみ。
風水ガーデニンググッズが充実している店。龍の通り道に水が飲める場所を作っておくと縁起がいいという風水の言い伝えがある。
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伝統と先進、東洋と西洋が雑多に入り交じっている香港は、街並みひとつとっても、視界の中にウルトラモダンな超高層ビルからカラフルでキッチュなボロアパートまで、あらゆるものが一度に目に入ってくる。
世界中から集まった花が所狭しと置かれている通りは歩くだけで楽しい。
ここフラワーマーケットでも、やはり同じ様相がうかがわれ、蘭、ハーブの他にも、サボテン、竹、風水のための置き物から、日本風の盆栽、観葉植物など、あらゆる植物が雑多に混ざり合って独特な活気を生み出している。
広東語で「盆栽」とは鉢植えのこと。日本の盆栽は「盆景」と呼ばれ、とても人気が高い。日本のものより少しラフな感じがする。
贈答向けの蘭に蚊避けのハーブなど、売られている植物も何かしら目的が持たされているものが多いのも、効率重視の土地柄をにじませている。とはいえ、狭い土地での閉塞感を緩和する小さなオアシスとしても、多彩な鉢植えが生活を潤す大切な役割を果たしているのは間違いない。
ショップの店番である看板猫が軒先でのんびり昼寝する姿も、香港らしい風景だ。
photos et texte:MIYAKO KAI