写真・文/神咲子(在スウェーデンコーディネーター)
スウェーデンでもここ数年、チアシードやクコの実などスーパーフードと称したエナジーフードが人気だ。しかし、昔からのエナジーフードの王者「バナーン」には足元にさえ及ばない。
妙なノビのあるこのスウェーデン語「バナーン」とは、バナナのこと! スウェーデンでバナナ?と思われるだろうが、WWFによると、スウェーデンはバナナ非生産国にもかかわらず、生産国に混じってバナナの消費量が多い国で、1年間にひとり当たり17kgのバナナを消費しているという。
バナナスライスがのった握り寿司もある。
1909年にスウェーデンに初めてやって来たバナナ。当初は輸送状態が酷く、凍結して黒ずんでしまっていてとても食べられるものではなかったという。その後は輸送状態が改善し、エキゾティックでおいしい、しかも栄養価に富んでいて実用的、そしてありとあらゆる宣伝が功を奏してスウェーデン人のバナナ人気に拍車をかけたのだ。
とまぁ、ここまでは何となく普通の話なのだが、スウェーデンではバナナを使った妙な料理がある。
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まずは「Flygande Jacob(フリーガンデ・ヤコブ)」。「飛ぶヤコブ」と直訳されるこの料理は、オーヴェ・ヤコブソンという、当時航空関係の仕事をしていたスウェーデン人が1976年に料理雑誌で紹介したレシピに由来する。材料はチキン、バナナ、ベーコン、生クリーム、チリソースそしてピーナッツ。これらすべてを合わせてオーブンで焼くという一品だ。この料理、チキンではなく魚バージョンは「Simmande Jacob(シンマンデ・ヤコブ)」=「泳ぐヤコブ」と名前が変わる。私もそうだが、私の知るスウェーデン人もまだ「泳いでいるヤコブ」にはなかなか遭遇したことがないのだが(笑)。
以前勤めていた会社の社食で出てきた「フリーガンデ・ヤコブ」には、スプーンを入れるのをかなり躊躇したものだ。写真のようなチリソースではなく、カレーソースでバナナはスライス状になっていた。バナナのあのもっさり感と甘さが料理に入るとどうにも何ともいえない味だった……。photo: Ulrika Pousette
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もうひとつが、バナナ×ピザ。スウェーデン人は、どんな田舎に行ってもピザ屋は必ずあるというくらいピザが大好きだ。デザートピザとしてのバナナピザならまだわかるが、ピザ屋にはバナナがトッピングのオプションに必ずあるというのが理解しがたいところ。
「ハワイアンスペシャル」と名付けられたピザのトッピングはバナナ、パイナップル、ハム、チーズ、そして仕上げにはカレーパウダー。温かいバナナとパイナップルの食感がかなり微妙。ほかにチキン&カレー&バナナというトッピングもあり。
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そして、以前の世界は愉快でも紹介したが、スウェーデンの朝食の定番、パンに塗るたらこチューブのブランド「Kalles Kaviar(カッレス・キャヴィアール)」。ディル味やクリームチーズ味(これはなかなかいける!)などさまざまなフレーバーがあるが、バナナ味もあったのだ! たらことバナナって……私のような日本人にはもはや怖すぎる展開だ。
スウェーデン人のバナナ愛にあふれたエナジーフードはおもしろいが、やはりバナナはそのままで食べるのがいちばんだと痛感する。
たらこチューブのバナナ味。いま現在は生産されていないが、当時はどうしても試す気にすらならなかった逸品。photo: Orkla
Photography & text:Sakiko Jin