毎年およそ1500万トンもの食料が廃棄処分となっているというイギリス。
近年は残った食べ物を閉店直前に大幅に割り引いてテイクアウトで売るデリやカフェを知らせしてくれるアプリが人気になったり、スーパーなどから寄付された余剰食材を格安に販売するコミュニティ・フリッジが全国あちこちに設置されたりと、対策が少しずつ人々の暮らしのなかにフードロス対策が広まってきている印象はある。
なかでもロンドンから約75km南下した海辺の街ブライトンにあるカフェ、ガーデナーはひときわユニークな存在だ。
ガーデナーがあるのは、個性的な店ばかりが集まっているガーデナーストリート。飾り付けのレインボーフラッグも可愛い。
店やレストラン、近隣の農家から必要とされなくなった食材を引き取り、それらをフル活用して作るヴェジタリアンランチを提供。それ以外にもコーヒーや紅茶、ソフトドリンクはもちろん、マフィンやペストリーがあることも。そして、その値段は買い手各自が決めるという「Pay as you feel」(あなたが感じたままに支払う)システムを取っている。
店頭の看板にも「Pay as you feel」の文字が。
シンプルながらもリラックスできる店内。
このカフェを運営している「リアル・ジャンク・フード・プロジェクト」は、フードロスと貧困により食品を十分に手にできない人々の問題に取り組むグループだ。ここはその両方を緩和するためのプラットフォームでもある。
「寄付された残り物で作っているのに、お金をとるの?」と感じる人もいるかもしれない。だが、そこには運営者たちの深い想いがあるのだ。
「Pay as you feel」システムなのは、むしろ人々を分断しないためだという。貧富の差を理由に「あなたは支払わなくていい」と誰かを除外してしまうのではなく、たとえほんのわずかであっても負担できる額を払うことで、ひとりひとりを尊重して平等とするという考え方だという。
また、ひと皿のランチを作るのはタダではできない。寄付された食材を集めるための車の維持費やガソリン代、店舗の家賃や調理の光熱費の足しとして、さらにはそこで働くボランティアたちの労力に敬意を示すためにも、人々は自分たちの懐具合に合わせた金額を払うのだ。
この日のランチはレンズ豆のパイとグリーンサラダ。おやつのウォールナッツ・マフィンもいただく。イギリスの他の店でこれを食べたらこのくらいかな?という基準で7ポンドを払うことにした。レジでの対応はすべての人にフレンドリーで心地いい。
オープンするのは木曜日から土曜日までの週3日だけだが人気は上々。お昼時になると、あっという間に行列ができる。近隣の会社で働く人や同じ通りにあるお店の人たちがランチを買いにきたり、近くの住民たちが誘い合ってやってきていたり。地元に根付いていることを強く感じさせる。
ランチタイムにはお店の外まで人々が並ぶ。
「リアル・ジャンク・フード・プロジェクト」は、2013年にイングランド北部のリーズでスタートした。リーズやブライトン以外にもブリストルやマンチェスターにもカフェ店舗を持ち、これまでに全店で200トン以上の食材をフードロスから救ったという。
このプロジェクトは、ガーデナー以外にも、ブライトン周辺のコミュニティセンターや教会のホールなどで曜日代わりに同様のランチを提供している。その様子を伝える写真がガーデナーの店内に展示してあった。料理を皿に盛る人たち、テーブルを囲んで食事を楽しむ人たちの姿からは、その場に広がる優しさが伝わってくる。
どの人の表情も穏やかなのが印象的。コミュニティという言葉の意味を改めて思う。
これからの季節は、暖房の効いた室内での温かな昼食はいっそうありがたい。一度は不要とされた食品でも、こうして誰かをほっとさせられる存在となることを教えてくれている。