文/長谷川安曇(在ニューヨークライター)
ニューヨークに来たばかりの頃、好物の餃子を食べにチャイナタウンへ向かった。今日はお腹いっぱい餃子を食べるぞ!と、すでに口の中に広がるジューシーな肉汁を想像しながら歩いている時、ホームレスの女性が目に入った。「お金をめぐんでください」と書かれた紙を地面に置き、道の端に座る彼女の腕には赤ちゃんが抱かれていた。いまから餃子を好きなだけ食べに行くのに、彼女は自分と自分の子どもの飢えと戦っている。ニューヨークにはレストランがあふれ、常に飽食であるのとは対照的に、飢えに苦しむ人が多く存在する。ふたりの姿に胸が痛くなった。財布からいくらか取り出して、彼女が持つ紙コップにお金を入れた。ふたりは明日食べるご飯はあるのだろうか?と想像した記憶が忘れられない。
ニューヨークのホームレス問題は深刻で、住宅都市開発省が今年1月に発表した統計によると、2020年にアメリカで最もホームレスの人口が多かった都市はニューヨーク市の7万7943人だった。彼らのもとに食料は行きわたるのだろうか?
ニューヨークにはフードレスキューと呼ばれる、余剰食料を必要な人々に届けるサービスが1980年代から存在する。82年に設立されたシティ・ハーベストは、市内のレストランや食料品店で余った食料を救済し、ホームレスのためのシェルターや、高齢者、生活困窮者に届けるサービスを行う先駆者的な団体だ。現在は毎日26台のトラックで食料を運搬し、ホームレスを含む150万人以上の貧困層に届けている。
1982年設立、フードレスキュー世界初の非営利団体であるシティ・ハーベスト。Courtesy of City Harvest
市内のレストランや食料品店、ベーカリー、会社のカフェテリアなどで余ったフードを、無償でニューヨーク市の各コミュニティに分配している。Courtesy of City Harvest
約160人の従業員と20000人のボランティアで成り立っている。Courtesy of City Harvest
シティ・ハーベストは、ニューヨーク市内でもっとも規模が大きいフードレスキューサービス。Courtesy of City Harvest
また、ニューヨーク市が運営するドネートNYCが、今年から「フードポータル」というサービスをスタートした。売れ残った食品を抱えるレストランや学校、宗教団体、非営利団体、コミュニティグループが食料を寄付し、それらを必要とする人々が受け取ることができる。ドネートNYCのウェブサイトに登録すれば、食べ物の種類や距離を基準にアルゴリズムが双方をマッチさせるというもの。過剰に作られた食品を再分配し、埋立地に送られるのを防ぐ仕組みだ。
世界的に有名なニューヨークのレストラン産業だが、膨大な量の食品を廃棄しているのも事実。本当に食べ物が必要な人々の元に、もっと行き届いてほしいと願ってやまない。
text: Azumi Hasegawa
長谷川安曇
東京出身、2004年からニューヨーク在住。フリーのライターとして活動しながら、映像制作にも携わり、キャンペーンやミュージックビデオのプロデュースとフィルムメーカーとしても活動する。www.azumihasegawa.com