文/坂本みゆき(在イギリスライター)
10月最後の週末に夏時間が終わって時計を1時間戻すと、イギリスは一気に冬の気配でいっぱいになる。日が沈む時刻は毎日どんどんと早まって、1日の大半がとっぷりと闇に包まれる季節はもう目前なんだと改めて気がついたりする。
暗くて寒いこの時期は、オペラとバレエのシーズンでもある。きらきらと輝き、ドラマティックな展開で気持ちを高揚させてくれる舞台が冬にたくさん上演されるのは、この季節の心の潤滑油となってくれるからなのかもしれない。
ロイヤル・バレエ団の『くるみ割り人形』より。目の前に広がる華麗な舞台は、現実を忘れる優美さに満ちている。©2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
クリスマスのお菓子の下ごしらえや、親しい人たちの顔を思い浮かべながらのプレゼント選びと同時に、演目リストを眺めながら今年はどれを観ようかなと思い悩むのも、この季節ならではのお楽しみだと思う。
12月のバレエに欠かせないプログラムといえば、何と言ってもおなじみ『くるみ割り人形』だ。盛大なクリスマスパーティのシーンが登場し、ファンタジーで満たされたストーリーと全編に見どころたっぷりの踊りを散りばめた構成で、小さな子どもから大人までが心置きなく楽しめる大定番。
ロイヤル・バレエ団の『くるみ割り人形』より。舞台中央に登場する巨大なクリスマスツリーに心踊らさずにはいられない。©2015 ROH. Photograph by Tristram Kenton
ロンドンでは毎年いくつものバレエ団による『くるみ割り人形』が上演される。今年はロイヤル・オペラ・ハウスでのロイヤル・バレエ団(11月23日〜2022年1月8日)を筆頭に、ロンドン・コロシアムにおけるイングリッシュ・ナショナル・バレエ団(12月16日〜2022年1月8日)、さらにはロイヤル・アルバート・ホールではバーミンガム・ロイヤル・バレエ団(12月28日〜31日)の公演がある。通はそれぞれを観比べてみたりするのかも。
また年明けにはロイヤル・バレエ団による『ロミオとジュリエット』(2022年1月10日〜2月25日)もある。
ロイヤル・バレエ団による『ロミオとジュリエット』。シェイクスピアの原作はもちろん、映画などでも知られる悲劇の恋を、改めてバレエで鑑賞してみるのもいい。© 2019 ROH. Photograph by Helen Maybanks.jpg
オペラの上演作品も華やかさでいっぱいだ。ロイヤル・オペラ・ハウスでは恋の駆け引きを楽しく描いた『フィガロの結婚』(2022年1月9日〜27日)、画家と歌手の悲しい恋の物語『トスカ』(12月5日〜2022年2月22日)が、ロンドン・コロシアムではイングリッシュ・ナショナル・オペラによる純愛を描いた悲劇『ラ・ボエーム』(2022年1月31日〜2月27日)が上演される。
ロイヤル・オペラ・ハウス上演の『フィガロの結婚』より。素晴らしい舞台美術や衣装も見どころのひとつ。© 2019 ROH. Photograph by Mark Douet.jpg
ロイヤル・オペラ・ハウス上演の『トスカ』より。ドラマチックな演出に心躍る。©KENTON.jpg
家を出てライトアップされた街中を抜けて会場に向かうところから、観劇の日の特別は始まる。きらびやかな装飾に囲まれた劇場内で座席に座り、わくわくと開演を待つ。
ロイヤル・オペラ・ハウスのメインシアター、オーディトリアム内。圧倒的な美しさ。©ROH 2016. Photograph by Sim Canetty-Clarke
そうして鑑賞した舞台は、心に明かりを灯してくれるはず。その明るさが、冬の暗い日々を乗り越える活力となっていってくれるのだ。
text: Miyuki Sakamoto