話題の人 from ロサンゼルス アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォータース?

世界は愉快 2021.12.19

稲石千奈美

ハマー美術館はロサンゼルスを代表する現代美術館のひとつで、地元の新人や知名度の低いアーティスト支援、キュレーターや展示でも多様性を重視し、ロサンゼルスの芸術を多角的に底上げする勢いあるアートが好評だ。

コミュニティとの繋がりと貢献を目指し、数年前に入館が無料になってからは、現代アートとコミュニティとの交差点としてより幅広い層から愛されるようになった。ふらりと立ち寄ってアートフルな中庭の椅子で休憩したり、マインドフルネスイベントや人気DJ起用のパーティなどアートを超えた楽しみ方も提供している。

このハマー美術館に先月、アリス・ウォータースが手がけたロサンゼルス初のレストラン、ルルがオープン。まだ収束しないパンデミックの最中、フーディーたちの間で待望のグッドニュースとなった。なにしろ彼女のレストランは1971年に開業した北カリフォルニア、バークレーの名店シェ・パニーズだけだったのだから。

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-01.jpg左手前がウェストウッドヴィレッジ地区の中心にあるハマー美術館。© Eric Staudenmaier

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-02.jpg中庭にあるルルのテラス席。photo: Justin Chung

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季節の恵みを味わうカリフォルニア料理とコミュニティ食育活動、さらにサステイナビリティ農業支援の頂点に立つアリス・ウォータース。人が集うハマー美術館の中庭に位置するレストランの構想にあたり、カリフォルニア料理の女王に直々アプローチしたのがハマー美術館長アン・フィルビン。さすがミュージアム界のアナ・ウィンターというほどファッショナブルで、ロサンゼルスならではの強力なネットワークを持つ気鋭の館長ならではの人選だ。

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-03.jpgハマー美術館館長、アン・フィルビン。photo: Mark Hanauer

人を魅了するアートや食が機動力となり、コミュニティに深い共感をもたらし得ることを知るふたりだからこそ、お互いの実績と目指すものがぴったり重なった。ニューヨークタイムズ紙によれば、当初ほかのシェフを推薦するつもりだったウォータース自ら「私が適任じゃないかしら」と申し出があり、その返事にフィルビン自身も驚いたと言う。ウォータースは「(シェ・パニーズの)ほかにレストランは経営したくないし、持っていないけれど、ハマー美術館にあるべき大事なレストランのチアリーダーをしているの」とロサンゼルスタイムズ紙の取材で語っている。そして2020年、めでたくフィルビンとウォータースの共同プロジェクトがスタートした。

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地元の旬の素材を主役にする料理を通して、カリフォルニアの自然や農業の個性を伝え、食育やコミュニティを大切にする意識を体現するレストランを提案したウォータースは、長年の彼女の右腕であるデイビッド・タニスをシェフに抜擢。実際に訪ねた農家で丁寧に育てられた野菜やフルーツ、畜産・海産物、乳製品などの魅力を日替わりメニューとしてシンプルに引き出す彼のレシピは、シェ・パニーズの流儀だ。

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-04.jpgルルのオープニングにて、カリフォルニアの野菜や草花で飾られたテーブル。アリス・ウォータース(写真左)とデイビッド・タニスは、シェ・パニース時代から長年のコラボレーターだ。photo: Justin Chung

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-05.jpgカリフォルニアの自然を感じる温かみのあるインテリアや食器、家具などもウォータースがこだわったディテールで、モダンな美術館のデザインやアートとのバランスがいい。photo: Hammer Museum

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-06.jpgphoto: Justin Chung

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パンデミックにより、バーチャルなアートコンテンツが充実したが、美術館に足を運んで芸術を体感するのは、シェフによる料理をレストランで味わう経験に通じる。フィルビンのハマー美術館が地元アーティストを発掘し、展示を通して私たちをアートに導くように、新しいレストランもウォータースが指揮を執る地元密着が最強の引力だ。

いまのところルルの営業はランチのみで、3品のコースが1カ月前から予約が可能だが、予約枠はリリースされた当日にすぐいっぱいになる。フィルビンの予想通り、「美術館に来ることのない人々がハマー美術館を訪れるきっかけとなる」レストランとの相乗効果はこれから一層高まり、アートとフードが地元コミュニティに浸透する新たな機会となる気配だ。

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-07.jpgある日のコースメニュー(3品45ドル)から。メインの地元の近海で収穫されたシーフードのスープ。photo: Justin Chung

211216-アート界のアナ・ウィンター×アリス・ウォーターズ?-08.jpgトレビスとフェンネル、ラディッシュの何気ないサラダだが、新鮮な食感とフレーバーが弾ける一品。こちらもコースメニューから。photo: Justin Chung

 

稲石千奈美

在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。

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