ニューヨークの寒い冬を越すために、毎冬自分に課しているルールがある。ユニクロのヒートテックは11月の第2週目から、ダウンジャケットはサンクスギビングまで着ない。ホッカイロは12月まで貼らない、パンツの中にレギンスを履いていいのは、年末から。バカバカしく聞こえるが、防寒アイテムを着ていい期間を設けて、自分に対してのルールを作らないと、これからやってくる本格的な冬を乗り切れない。ホリデーイベントやパーティもたくさんあるのに、あまりの寒さに冬の到来を心待ちにすることはなく、冬仕度とやせ我慢が背中合わせになるニューヨークの冬。しかし今冬だけは、例年に比べてそこまで暗い気分にならない。気温が下がったら着ようと心待ちにしているセーターがあるからだ。
ニューヨークの寒い冬を、明るく彩ってくれそうなフィオナ・ユングマンのニット。柄×柄など、いろいろな着こなしが楽しめそう。カスタムメイドも積極的に行っており、DMでリクエストが可能。
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フィオナ・ユングマンがデザインするニットウエアは、100%ウールの毛糸を用いたアイテムで、フォークロア風のデザインはどこかノスタルジック。ゆったりとしたシルエットで、おじいちゃんやおばあちゃんが昔着ていたニットのようなデザインだ。フィオナ自身がすべての製品を手織りしているので、生産するまでに時間がかかり、彼女自身が「ニットウェアを作ることは、形のあるスローアート」と呼ぶほど。東欧を彷彿させるデザインは、ブルーやイエローなどの鮮やかな色を使い、暗くてグレーなニューヨークの寒空を明るい感じにさせてくれそうだ。
「コレクションはファンタジーランドに暮らす空想上の社会で生活する人々が着ているところを想像して、デザインのアイデアを膨らまします」とフィオナ。セーター400ドル/フィオナ・ユングマン photo: Courtesy of Fiona Jungmann
ざっくりとした編み目で、スタイリングのアクセントになるマフラー125ドル/フィオナ・ユングマン photo: Courtesy of Fiona Jungmann
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ニューイングランド地方出身のフィオナは、子どもの頃「アメリカン・ガールズ・ドール」で遊ぶのが好きだった。「ダーンドル」と呼ばれる、ドイツやオーストラリアのある地域でみられる民俗調のスカートを自分が持っている人形のために作ったことが、最初の「服作り」だったと話す。フィオナのセーターが持つノルタルジックなフィーリングは、デザインする時は過去に想いを馳せて、構想を練るからだそう。祖父の家にあった壁紙から花柄のデザインを思いついたこともある。
フィオナのニットに限らず、ニューヨークではノスタルジックなデザインの手編み風のニットウエアが流行中。2021年秋冬のニューヨークファッションウィークでは、ヴィンテージライクなアイテムが目立った。また気候変動に対する懸念から、ファストファッションの対極であり、「良質なものを長く着る」「環境に優しい」「時間をかけて、少数生産で作られた」スローファッションが主流になっていることや、パンデミックで自宅にいる時間が増えて、編み物がブームになっていることも人気を後押ししているようだ。
トレンドはともかく、長くて暗いニューヨークの冬に暖かいニットを着る。ささやかな楽しみだけど、厳しい冬をぬくもりのある暮らしに変えてくれるニットで乗り切りたい。
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頭から首を覆ってくれるバラクラバは、ニューヨークの寒い冬の必需品。各85ドル/フィオナ・ユングマン photo: Courtesy of Fiona Jungmann
www.fionajungmann.com
text: Azumi Hasegawa

長谷川安曇
東京出身、2004年からニューヨーク在住。フリーのライターとして活動しながら、映像制作にも携わり、キャンペーンやミュージックビデオのプロデュースとフィルムメーカーとしても活動する。www.azumihasegawa.com