底冷えするドイツの冬、黒パンとともに味わいたいスープが「ソリャンカ」だ。ソーセージや肉の切れ端をコンソメスープで煮込み、トマトペーストときゅうりの酢漬けをマリネ汁ごと入れて(これがポイント!)、甘酸っぱく仕上げた冷蔵庫の残り物お片付けスープだ。
ソリャンカには、サワークリームをトッピングすることも多い。クリームを混ぜながら食べ進めるとよりマイルドに。
旧東ドイツ時代のレシピのまま醸造されているビール。マイルドで麦の甘味が感じられ、甘酸っぱいソリャンカによく合う。
ロシアが発祥と言われるこのスープは、簡単で安上がりな上にボリュームたっぷりとあって、旧東ドイツでは学校給食や社食で定番の人気メニューだったそう。いまも東部のレストランやカフェでよく見かける。旧東ドイツ出身のアンゲラ・メルケル前首相も女性誌のインタビューで、「東ドイツの典型的な料理」であるソリャンカが好物だと明かしている。
ベルリンの壁崩壊から2022年で33年になるが、いまだに東ドイツと西ドイツでは微妙に食文化に違いが見られるのが興味深い。ソリャンカだけでなく、分厚いハムカツ「イェーガーシュニッツェル」など東ドイツのレストランでしか見かけないメニューが実はいくつも存在する。東ドイツという国は無くなってしまったが、そこに生きた人々の味の記憶は消えることなく、脈々と受け継がれているのだ。
旧東ドイツの名物料理「ヴュルツフライシュ」。細切りの肉をホワイトソースで和えて、オーブンでグラタンのように焼き上げる。
旧東ドイツの名物料理「死んだおばあちゃん」。ひきわりの大麦が入った血のソーセージを玉ねぎなどと炒めて、付け合わせのマッシュポテトやザワークラウトなどを混ぜながら食べる。
ソリャンカは、最近では西側のレストランでも見かけられる。東ドイツの味と紹介されていることもあるが、ベルリンのおしゃれなレストランではベジタリアン向けのアレンジメニューもある。しかし誰もがいちばんおいしいと口を揃えるのは、"うちのソリャンカ"。東ドイツのおふくろの味は、どこか懐かしい味わいで心まで温めてくれるようだ。
photography & text: Hideko Kawachi

河内秀子
ライター。2000年からベルリン在住。ベルリン芸術大学在学中に、雑誌ペンなど日本のメディアでライター活動を始める。好物はフォークが刺さったケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau