スープ編 from イギリス 名の由来は大気汚染?イギリスの定番スープ「ロンドン特有」。

寒い季節はもちろんだけれども、イギリスでは1年を通してスープが食卓に上がる率はかなり高いと思う。コース料理の前菜から自宅での手軽なランチまで、さまざまなスタイルに適応できるからなのだろう。私の息子が通う学校の学食の日替わりメニューをのぞいてみれば、2週間に一度は登場している。もっとも高校生の彼らにはスープと付け合せのパンだけの昼食はちょっと物足りないらしくて、あまり人気はないみたいだけれども。

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先日立ち寄ったカフェの壁には「もっとスープを食べよう!」と書かれたアートワークが飾られていた。多くのカフェのメニューには「本日のスープ」がある。

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スーパーマーケットでは、お湯に溶くだけの粉末から缶詰め、さらには近年人気のパック詰めのフレッシュなものまで、さまざまなタイプが棚の広い範囲を占拠して並び、イギリスの人々の暮らしに溶け込んでいるのが実感できる。

最近はエスニックな味付けのものなども見かけるけれども、イギリスの定番スープは決まった素材を組み合わせて作る。リーク(西洋ネギ)とポテト、人参とコリアンダー、ブロッコリーとスティルトンチーズなどだ。

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スーパーに陳列された、プラスチックのパック入りフレッシュスープ。ここでも定番の味が並ぶ。

エンドウ豆とハムもそのひとつ。ハムホックと呼ばれる、スモークされた豚の骨つきスネ肉を数時間煮て取ったストックに、ひと晩水に漬けておいた乾燥エンドウ豆を原料としたイエロー・スプリット・ピーを入れて作る。

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「ロンドン・パティキュラー」。細かく裂いたハムホックの肉を入れていただく。

実はこのスープ、「ロンドン・パティキュラー(ロンドン特有のという意味)」という別名も持っている。緑を帯びた黄色い色が、石炭を燃すことによって発生した二酸化硫黄によるかつてのロンドンの霧を思わせることに由来しているという。

19世紀の芸術家、ジョン・サーテインがこの霧を「食堂のエンドウ豆のスープのよう」としたのがもっとも古い記述だと言われているが、霧の原因となったロンドンの大気汚染は13世紀にはすでに深刻化していたという。

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イエロー・スプリット・ピーは、エンドウ豆の皮を剥いて半分に割って乾燥させたもの。この色が「ロンドン・パティキュラー」の名の由来となっている。

さらに1952年には厳しい寒さのために石炭の消費が激増、そのため数メートル先すら見えない濃霧による記録上最悪の「グレートスモッグ」を引き起こした。ネットフリックスのドラマ「ザ・クラウン」シリーズ1第4話の、チャーチル首相の秘書が濃霧のために交通事故で命を落としたエピソードでグレートスモッグを記憶する方も多いはずだ。

その後、石炭の使用を制限する法律やセントラルヒーティングの普及でこの黄色い霧は発生することが激減したものの、スープの名称として残っている。

スープボウル中の「ロンドン・パティキュラー」の、もわもわっとした見た目は確かに濃い霧という形容がぴったりとくる。でも、そんな不名誉な名称とはうらはらに、滋味に満ちた優しい一杯なのだ。

photography & text: Miyuki Sakamoto

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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