2021年開催されたの東京オリンピック2020で、車いすフェンシングで2度目の金メダルを獲得したベアトリーチェ・ヴィオをご存知だろうか。べべという愛称で世界中から親しまれ、イタリアではスーパースターといっても過言ではない存在だ。
彼女は1997年にヴェニスで生まれ、幼い頃からフェンシングに魅了されていたが、11歳の時に患った髄膜炎のため四肢を切断。しかし、その後わずか1年で義手と義足を付けスポーツ界に復帰。家族とともに、身体の一部を失った子どもたちの心身の治療としてスポーツを活用すること、そしてパラリンピックスポーツの普及を行うNPO団体art4sportを立ち上げた。19歳となった2016年には、世界でたったひとり前腕のないフェンシング選手としてリオ・パラリンピックに出場を果たし、フレーレ個人で金メダル、団体でも銅メダルを獲得した。
その後は、一気に知名度が上昇。オバマ元大統領によりホワイトハウスに招待され、ローマ法王に会い、国連総会でスピーチを行うなど、世界的に知られる存在に。
128万人のフォロワーを誇るインスタグラムを始め、SNS上でも非常にアクティブなことで知られるべべ。2016年には髄膜炎のワクチンキャンペーンのため、子ども写真家として有名なフォトグラフォー、アン・ゲデスとコラボ。これまでにディオール、ロレアル、NTTドコモ、トヨタなどのキャンペーンにも起用された。
10代から髄膜炎のワクチンを広める活動や社会問題にも取り組む彼女は、いま24歳。「スポーツにすべての人がアクセスできるように」という長年の夢のもと、昨年10月にはナイキと提携し、新しいプロジェクト「べべ・ヴィオ アカデミー」をミラノでスタートした。
アカデミーでは身体的に障がいのある6歳~18歳の子どもたちが、車いすフェンシング、シッティングバレーボール、車いすバスケットボール、パラリンピック陸上競技、アンプティサッカーの5つの競技にトライできるプログラムを提供する。特徴的なのは、障がいのない若者たちも参加できること。パラリンピックスポーツを「すべての子ども」が一緒に体験できる画期的な試みだ。
彼女の強い精神力と発信力は常にエネルギッシュで、たくさんの人々を魅了し、勇気づける。これまでの実績が物語る、とにかくどんな時もポジティブな彼女の影響力は計り知れない。イタリア社会では、やはり男性リーダーが圧倒的に多いが、その中でもひときわ輝いている女性リーダーのひとりだ。
text: Kiyoe Sakamoto
坂本きよえ
在ミラノジャーナリスト。イタリア人の人柄の良さ、寛容さに惹かれて住み続けて数十年。旅好き、ヴィンテージマーケット好き、物好き、食べ物好き。ミラノのギャラリー&レストランの7人の侍(オーガナイザー)に選ばれイベント企画を手がけるニューライフスタイルに挑戦中。最近お気に入りの場所はサンセットが美しいポルトガル。