アナ・ウィンターはクリエイティブなリーダーシップを、ゴードン・ラムジーが料理の基本を、セレナ・ウィリアムズがテニスを教えていると、特にパンデミック下で群を抜いて受講者数がうなぎ上りした習い事が「マスタークラス」だ。
Courtesy of MasterClass
オンライン大学での講座や習い事は珍しくないけれど、知識層の大人をターゲットにすえた購読会員制のオンライン講座「マスタークラス」にはふたつの超越した特色がある。ひとつは名声、実績ともに各界トップクラスの成功者や専門家を150名近く揃えたセレブリティ講師陣。そして、エンタテイメントとしても観たいと思わせる映像のクオリティだ。講座は芸術、エンタメ、デザイン、スポーツ、文筆、科学・技術、政治、ビジネス、ゲーミング、ウェルネス、ライフスタイルなどカテゴリーがあり、各コース基本10~30分程度の動画が10〜20本で構成されている。
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セレブシェフのゴードン・ラムジーは4時間に渡りキッチンのレイアウトから料理人の心得まで伝授する。女優ナタリー・ポートマンは演技指導や俳優という仕事への多角的なアプローチを、ボビイ・ブラウンはメイクテクニックだけでなく美意識の信念を教える。
マスタークラスのどのコースにも共通しているのは、有無を言わせぬ魅力的な第1人者たちのパーソナルストーリーや実体験、人生観が全体に織り込まれている点。普段は表に出ることないエピソードやトレーニング方法のほか、達成者としての姿勢や価値観、成功までの道のりをミニ・ドキュメンタリー感覚で楽しめること。「これ、ここだけで公開してる?」という話には好奇心を掻き立てられるし、映像にも単なる教育目的を超えたコンテンツ制作の手腕がうかがえる。
憧れの的であり尊敬する著名人が自ら培ったノウハウや体験談を語りかける親近感には引力があり、無意識に次々と一気見してしまう。自己啓発のためのレッスンがオンデマンド・エンターテイメントとして仕上げられ、豊富なコンテンツとして配信されるという、まさにネットフリックスのような仕掛けだ。
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たとえば、新しく講師陣に加わったビル・クリントンが教える「インクルーシブなリーダーシップ」はマスタークラスで現在いちばん人気。合計2時間半で交渉術からパブリックスピーキング、自分に向けられた批判への対応法などもカバー。実際にあった北朝鮮との交渉を事例に取り上げる回もある。交渉術や仲間づくりは、仕事や日常生活でも応用できる。
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本人が「プライベートレッスンに近い」というセレナ・ウィリアムズのテニス講座では、「ここはこうして」というフォームのテクニカルな指導に加え、メンタルトレーニングや試合に備える心構えについても説いている。
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マスタークラス初の試みとなる講座「共感のパワー」は、同テーマをミュージシャンのファレル・ウィリアムズを筆頭にフェミニズム活動家グロリア・スタイナム、哲学者コーネル・ウエストら7名の講師が教える。最終回のテーマ「Do Something」でファレルは、平等な社会を目指して人々の共感を得るアクションを実際に起こすことを熱く勧めている。
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マスタークラスで新しくスタートした「セッションズ」は1カ月で特技を習得するのが目的のコース。登録者は30日間分のレッスンと宿題をこなす。提出したプロジェクトへは講師アシスタントチームからのフィードバックがあり、登録者同士のネットワークもできるサービスだ。
「セッションズ」ではグラミー賞受賞歴のあるクリスティーナ・アギレラが歌とパフォーマンスを、米政府FBIで困難な交渉をマスターしたクリス・ヴォスが職場での交渉術を教えるほか、ジョアン・チャンとのケーキ作り、モリース・ハリスとのフラワーアレンジメント、ニンジャとのストリームビデオコースがある。レッスン動画を閲覧するだけでなく作文したり、ケーキを焼いたりと実践課題をこなすため、新鮮な達成感が得られる。
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マスタークラス会員になれば100以上用意されているコースはすべて見放題。毎月追加される新規講師陣やコンテンツのほか、最近は講師にリアルタイムで質問できるイベントなどもありインタラクティブ性も重視されている様子。購読料金は1カ月15ドル程度だが、年間購読のため契約時に1年間の料金180ドル〜を支払う。そのため、年間180ドルの対価を得られるかは本人次第。時折ひとり分の料金で2名が購読できるキャンペーンも実施しているので、友人同士で会員になって大人の切磋琢磨も悪くない。いまや企業価値が27.5億ドルを超えるマスタークラスは、今後B2Bのベンチャー企業への投資とグローバル展開を行っていくと発表している。
text: Chinami Inaishi
稲石千奈美
在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。