「犬大国」と言われることが多いドイツだが、実はドイツでもっとも多いペットは猫。2020年のある統計には、西ヨーロッパ最多1570万匹もの猫がドイツの家庭で暮らしているとある。寒さが厳しいせいか街中で猫を見かけることは少ないが、屋内には多くの猫がいる。有名なのは、ロマンチック街道の城壁に囲まれた街ネルトリンゲンにいる教会の塔を守る番猫。13年間も塔に暮らすヴェンデルシュタインは、街の人だけでなく世界中から訪れる観光客にも人気のアイドル猫だ。
2009年からネルトリンゲンの聖ゲオルク教会の塔に“勤務"する猫職員、ヴェンデルシュタイン嬢。
ドイツにはペットショップはないが、多くの猫がティアハイムという保護施設を通じて引き取られていく。原則として動物の殺処分を行わないドイツでは550を超える動物保護団体によるシェルターが存在するが、なかでも首都ベルリンにあるティアハイムは16ヘクタールもの敷地で欧州最大級の規模を誇る。
1841年からある動物保護団体ティアハイム。この建物は2002年に完成した。16ヘクタールの敷地は、なんとサッカー場22個分にあたる広さ。
自然光がたっぷり入る明るく広々とした猫専用の建物は4つ、さらに外で育った野良猫がのびのびと過ごせる建物も。6つの犬用の棟のほか、鳥の棟、そして爬虫類などの「エキゾチックアニマル」や猿を保護する棟、豚や山羊、鶏などの家畜が老後を過ごす福祉ファームも設置されている。
施設内の猫専用棟には、外歩きが好きな野良猫用、活動的ではない高齢の猫用といった具合にスペースが分けられており、猫は思い思いに過ごせる。
犬猫だけでなく爬虫類や鳥類もいる。
通常は一般開放日があって相談所などもあるが、残念ながらコロナ以降まだ閉鎖されている状況だ。譲渡はメールでの問い合わせを通じて受けている。また、最近ではウクライナ侵攻によって愛するペットとともにドイツに避難してきた人のためにも尽力している。
新しい飼い主への譲渡も行うが、障害や持病がある動物はティアハイム内でケアし続けることも。獣医や看護の資格を持つスタッフにより親密なケアが施される。ボランティアで働く人は約800名。
「多くの人たちが当面の餌だけを持ち、リュックサックやジャケットの中に猫を入れて避難してきています」というのはベルリンのティアハイム広報担当ユリア・ザッセンベルク。ティアハイムは難民の最初の受け入れ施設に出張してケージや餌などを無料で配布。さらにペットをEU内で移動できるように登録も行っている。希望者にはワクチン接種やマイクロチップの装着も行い、獣医による診察も。いまは1日に100匹以上のペットが登録されているそうだ。さらに、ベルリンの難民受け入れ施設ではペットも同伴可能だが、ドイツ全国で可能になるように働きかけているという。
「難民の方々にとって、愛するペットのぬくもりの効果は計り知れません」。市内の支援団体と協力して、ペット連れの難民を受け入れてくれる家庭とのカップリングも行っているそうだ。
text: Hideko Kawachi
河内秀子
ライター。2000年からベルリン在住。ベルリン芸術大学在学中に、雑誌ペンなど日本のメディアでライター活動を始める。好物はフォークが刺さったケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau