いつか泊まりたい話題のホテル編 from ロサンゼルス ミシュラン星付きの料理と宿で、超ローカルなカリフォルニアを満喫。

世界は愉快 2022.05.17

稲石千奈美

サンフランシスコからハイウェイ1で海岸線を北上していくと、3時間ほどのドライブでエルクに到着する。カリフォルニアの住人でさえその名を知る人の少ない小さなコミュニティだ。美しい田舎の湾はパームツリーや賑やかなビーチの“ザ・カリフォルニア”とは違う景色。ハーバーハウスインは、100年以上前にこの湾を見晴らす土地に地元の美しいレッドウッド(木材)を使って建てられた。この歴史ある建物が8年間の丁寧なリノベーションを経て、5軒の離れも含む11部屋の宿として2018年に営業を再開した。

コロナ禍であったここ数年、カリフォルニアのグルメな旅好きたちが自家用車で出かけられる美しい自然の中の宿を求める中、料理やもてなしまで超級のこの特別な宿に予約が殺到したのだ。

20220509-yukai-hotel-Los-01.jpg美しいレッドウッドを使用し、地元の主力産業であった林業を支える製材会社のPRを兼ねて建てられたハーバーハウスイン。photography: Brendan McGuigan Courtesy of Harbor House Inn

20220509-yukai-hotel-Los-03.jpg由緒ある母屋にある人気のレッドウッドスイート1泊525ドル~。photography: Brendan McGuigan Courtesy of Harbor House Inn

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都市から離れた海辺に佇む閑静な宿は、天然木材が美しい由緒ある母屋、シンプルながら贅沢な調度品、そしてワインの産地に隣接する地元ならではの食材を使った心づくしの料理ともてなしが日本の高級旅館さながらだ。

心地よさに包まれる宿でくつろぐのもいいが、外に踏み出せばホテル敷地には菜園も兼ねるガーデンが広がる。そこでは、その日の食材を収穫するシェフたちに出会うかもしれない。季節の自然を愛でながら散歩する途中にハンモックで休憩もするもよし、プライベートの海岸へ降りて色とりどりの貝殻を探すのもいい。釣りやカヤックで海に出ることもできるし、近くには小さな滝があるなどハイキングコースも豊富で、乗馬もできる。

20220509-yukai-hotel-Los-04.jpgphotography: Brendan McGuigan Courtesy of Harbor House Inn

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ハーバーハウスインの滞在を五感で堪能するには、レストランの予約もお忘れなく。ハイパーローカルなレストランはミシェランの星をふたつ、サステイナビリティ活動においてグリーンクローバーも授与されている。シェフ、マシュー・カメラーの夢が実現したレストランの食材はすべて半径75km以内から調達。北カリフォルニアの海とワイン生産も有名な農業地区という立地を生かしたセレクションに大いにこだわっている。潮風による優しい塩気のテロワールで育つ宿の菜園の野菜やハーブ、野草、鶏や卵のほか、果物、海藻やウニなどは敷地続きのビーチから可能な限り自給自足でまかなう。海の幸は地元の漁師から、肉や酪農品などはスタッフが通勤途中に地元の農家でピックアップするという徹底ぶりで、ファーム・トゥ・テーブルの距離がぐっと近い。さらにキッチンから出た生ゴミは宿で堆肥化し、翌日には土に戻されているのだという。

20220509-yukai-hotel-Los-05.jpgスタッフによるキノコ採集。 photography: Bonjwing Lee

20220509-yukai-hotel-Los-06.jpgphotography: Brendan McGuigan Courtesy of Harbor House Inn

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夕食はおまかせのコースのみで季節の10〜12品を味わえる。アワビ、ウニなど日本人にはおなじみの食材のほか、ある日のメニューにはユーカリプタス、山羊、マリーゴールド、マルメロ、アーモンドオイルなどカリフォルニアののどかな景色が連想できる素材が並び興味深い。5月初旬のメニューはグラウンドチェリー(ホオズキのような実)、ブッシュカン(柑橘の1種、仏手柑)、よもぎ、ベイマツ(マツ科の針葉樹)などが使用され、まるで自然の恵みの歳時記のようだ。また、宿があるメンドシーノ郡はナパやソノマと並びワイナリーも多いエリアであることから、レストランのワインセラーにはテロワールの相性を重視した地元の小さなワイナリーのセレクトが充実しているのでぜひ試してみたい。3000本近いワインを常備しているから迷ってしまうけれど、コースに合わせたドリンクペアリングもおまかせすることができる。

20220509-yukai-hotel-Los-07.jpg美しい品々は地元の陶芸家のうつわでサーブされる。懐石料理のような上品なポーション。 Courtesy of Harbor House Inn

20220509-yukai-hotel-Los-11.jpg注目のシェフによるディナーは18席限定、おまかせコースで245~265ドル、ワインのペアリングは175ドル。 Courtesy of Harbor House Inn

ロサンゼルスやサンフランシスコから数時間かけてエルクに到着し、テレビも通信機器の電波も届かない部屋にチェックインを済ませたらスマホを荷物の中におさめて、ハーバーハウスインに身も心も委ねるのがベストだと思う。エココンシャスで贅沢な宿体験で、ぜひ充電をしてみたい。

20220509-yukai-hotel-Los-09.jpg部屋や屋外のパティオでいただける朝食の一例。メインは宿で飼育している鶏の新鮮な卵を使ったシェフのおすすめ、シャードエッグ(ベイクドエッグ)。季節のハーブや野菜をトッピングして混ぜて、自家製パンとともに。仕入れた肉の部位を無駄なく使ったソーセージやパテなどもお好みで。Courtesy of Harbor House Inn

ハーバーハウスイン
www.theharborhouseinn.com

text: Chinami Inaishi

稲石千奈美

在LAカルチャーコレスポンデント。多様性みなぎる都会とゆるりとした自然が当然のように日常で交差するシティ・オブ・エンジェルスがたまらなく好き。アーティストのアトリエからNASA研究室まで、ジャーナリストの特権ありきで見聞するストーリーをエディトリアルやドキュメンタリーで共有できることを幸せと思い続けている。

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