女性が創る新しい世界 from ベルリン 「女性、生命、自由」ベルリン映画祭で呼びかけられたイラン女性への連帯。

世界は愉快 2023.03.10

河内秀子

2023年2月16日から26日まで開催された、第73回ベルリン国際映画祭。今年はコンペ部門に新海誠監督の『すずめの戸締まり』がノミネート。2002年に同部門でグランプリとなる金熊賞を受賞した宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』に続くか?と、コンペの結果に日本からも注目が集まった。

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『すずめの戸締まり』プレミア上映にて。新海誠監督と着物姿の原菜乃華さんは"椅子"を手に。ベルリンの観客にも知ってほしいと「福島第1原発のメルトダウンによって12年経ったいまでも故郷に帰れない人々が日本にはたくさんいる」と上映後に監督はスピーチした。photography: © Sandra Weller / Berlinale 2023

そんな中、今年のベルリンのレッドカーペットはさまざまな抗議運動や連帯を示す場に。映画祭ディレクターや審査員長のクリステン・スチュワートを中心にイラン系の映画監督、俳優たちが「女性、生命、自由」とスローガンを掲げ、イランの圧政に抗議し、女性たちの基本的な人権を取り戻すために連帯を呼びかけた。

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2月18日に行われたイランへの連隊を呼びかけるデモ。左から、映画祭ディレクターのマリエッテ・リーセンベーク、審査員のクリステン・スチュワート、ゴルシフテ・ファラハニ、奥にディレクターのカルロ・シャアトリアン、手前にクルド系ドイツ人俳優のバヤン・ライヤ。 photography: © Ali Ghandtschi / Berlinale 2023

2022年9月13日。22歳のクルド系イラン人の学生、マフサ・アミニが、頭にかぶっていたスカーフの付け方が正しくないとして道徳警察に逮捕された。3日後拘置所で昏睡状態に陥った彼女は、病院で死亡。警察は心臓発作を起こしたのだと発表したが、ソーシャルメディアを中心にアミニが抵抗したために警官に殴られていたという目撃情報も流れ、大きな抗議運動が巻き起こった。
10月22日にはベルリンに約8万人が集まり、イランにおける圧政や女性差別に抗議。市民はもちろん、ヨーロッパ各地在住の多くのイラン人女性がこの日のためにベルリンを訪れて連帯を表明。欧州最大のデモとなった。その後も市内では断続的にデモが行われている。

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photography: © Ali Ghandtschi / Berlinale 2023

ベルリン映画祭では、開会式で今回の審査員のひとりであるイラン人俳優ゴルシフテ・ファラハニが演説を行い、満場総立ちで拍手喝采が送られた。「私たちは女性と生命と自由のために、皆さんの力を必要としています。イランの女性そして男性の勇気を認め、ともに立ち上がる必要があるのです」イラン系ドイツ人俳優ヤスミン・タバタバイやメリカ・フォルタンといった映画人たちも「女性、生命、自由」のスローガンとピースサインを掲げ、観客から「ジン、ジヤン、アザディ(女性、生命、自由)」の声が上がった。

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ドイツ若手映画を紹介する「Perspektive Deutsches Kino」部門2023年のオープニング作品『Sieben Winter in Teheran(Seven Winters in Tehran)』Steffi Niederzoll 監督作品。 photography: © Made in Germany

ドイツ映画部門では、強姦されそうになって刺した相手が秘密警察の一員だったために死刑宣告を受けた19歳のレイハネ・ジャバリと、娘を助け出そうとする母ショレ・パクラヴァンの戦いを描くドキュメンタリー『レイハネの願い ー テヘランの7回の冬』が上映され、部門賞と平和映画賞をダブル受賞した。
女性に人権など認められていない。女性として魅力的であったことや、抵抗したことがそもそも罪だと言わんばかりの警察の主張。「血は血でしか償えないと言うなら、私を代わりに殺してくれ」と遺族に懇願する母。女性たちの怒りと悲しみ、悔しさが伝わってきて、涙が止まらなくなる。レイハネの死刑執行の後、母はレイハネの妹たちとともにドイツに亡命。映画祭では上映のたびに登壇し、トークやデモにも足を運び、娘と同じ境遇の女性たちの権利のために声を上げ続けている。

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『レイハネの願い ー テヘランの7回の冬』のワンシーン。裁判所で答弁するレイハネ・ジャバリ。刑務所の中でさまざまな女性たちと知り合い、助け合って戦おうと立ち上がった。レイプの事実を否定すれば死刑を取り下げてやると遺族に言われた母だが、レイハネはそれを拒絶する。photography: © Made in Germany

text: Hideko Kawauchi

河内秀子

ライター。2000年からベルリン在住。ベルリン芸術大学在学中に、雑誌ペンなど日本のメディアでライター活動を始める。好物はフォークが刺さったケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau

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