ここ数年、ドイツでスーパーフードとして注目を集める日本の食材といえば、なんといっても“matcha”だろう。美しい緑色や栄養価の高さはは抹茶だけでなく緑茶の特徴でもある。パンデミックを機に健康意識も高まり、その流れで日本茶を提供するお店も増えているという。
ドイツではどんな人が、どんな思いで緑茶を飲むのだろうか? ベルリンの飲食店や、販売店のスタッフを招いての狭山茶の試飲会を訪れてみた。
白磁の小さな湯呑みで次々と試飲していく。合わせて手作りの茶菓子が供された。
会場は、街の中心部にある隠れ家的レストランOUKANだ。オーナーのHuy Thong Tran Mai(フィ・トン・トラン・マイ)はもともとはファッション業界で働いていた人物。東日本大震災の際には日本からデザイナーを招聘し、ファッションウィークでチャリティを企画。その後も日本のファッションを扱うコンセプトストアや飲食店を立ち上げて、日本のカルチャーをベルリンに紹介している。
OUKANのインテリアは安藤忠雄のミニマリズム建築をお手本にオーナー自らが手がけた。
シックな空間の中で、狭山の生産者たちとZoomを繋げて試飲会が始まった。緑茶の種類や狭山という産地の説明の後、裏千家の先生がお茶を淹れてくれる。みな真剣な面持ちで説明を聞き、飲み比べていく。
市内で緑茶を扱う飲食店、パティスリーやミシュランの星付きレストランなどから15名ほどが参加。
OUKANでお茶のアドバイザーも務める裏千家の方がお茶を淹れる。
「スタジオジブリのアニメを見て、日本では食事の合間に緑茶を飲むんだ!と発見した人は多いと思いますよ」とおもしろい話をしてくれたのは、日本の食材を扱うお店Hanabira(ハナビラ)のオーナー、カトリン・ティーデさんだ。ドイツでお茶といえば紅茶。ティータイムにケーキと一緒に、もしくは食後に飲むものだった。しかしアニメの中では、食事の合間に美味しそうに緑茶を啜る人たちが出てくる。
「あの飲み物が飲んでみたい!って。だから私の店に来るお客さんにとっては、日本のお茶であることが何よりも重要ですね」
Hanabiraのオーナー、カトリン・ティーデさん(左)「おしゃれなパッケージよりも味! そして日本産であることがお客さんにとっては重要だと思います」
UMAMI(旨味)が甘・酸・塩・苦に続く5つ目の基本的な味覚としてドイツの人たちにも認識されたことが、緑茶人気に繋がっているのかも、と分析するのは、2013年から日本茶の輸入、販売を手がけるKOS teaオーナーのオリバー・ザイファートさんだ。
「緑茶は他の飲み物に比べて、圧倒的に旨味が多いですから。私はこれまで旨味や甘みが感じられるまろやかな宇治茶や、鹿児島の有機栽培のお茶を中心に輸入してきました。今回試飲した中では、奥富園の茎茶、鬼の白骨は群を抜いて印象的で美味しかったですね」
フランスなどに比べれば、まだまだ緑茶が広まっていないドイツではあるが、だからこそ市場に成長の可能性が秘められているとザイファートさん。日本食のブームとともに、相性のいい緑茶の魅力がドイツにも浸透していきそうだ。
気軽に色々な味を楽しむことができるティーバッグも。
濃い緑の半被で狭山茶をアピール
text, photography: Hideko Kawauchi
河内秀子
ライター。2000年からベルリン在住。ベルリン芸術大学在学中に、雑誌ペンなど日本のメディアでライター活動を始める。好物はフォークが刺さったケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau