17世紀の劇場をモデルに建てられた、ロンドンのサウスバンクに位置するシェイクスピアズ・グローブ座。ここで8月12日まで上演されている『真夏の夜の夢』は、シェイクスピアの名作喜劇を新しい感覚で賑々しく描いて話題だ。
サイバーパンクのような衣装も新鮮!シェイクスピアズ・グローブ座で上演中の『真夏の夜の夢』のワンシーンより。
©︎Helen Murray
特に物語の中心となる二組の男女のひとり、ヘレナを演じるイソベル・トムの演技が注目されている。
舞台で熱演中のイソベル・トム。昨年、王立ウェールズ音楽演劇大学を卒業したばかりの期待の若手だ。
©︎Helen Murray
イソベルは昨年やはりシェイクスピアズ・グローブ座で上演された『アイ・ジョーン』で主役のジャンヌ・ダルクを演じて一躍時の人に。それはジャンヌを自分の性認識を男女どちらにも当てはめないノンバイナリーとして描いた作品なばかりではなく、イソベル自身もノンバイナリーだったから。
イソベルのインスタグラムより。『アイ・ジョーン』のオン&オフステージの写真の数々。
しかし一方で、文化的なアイコンであり特別な女性とされてきたジャンヌをノンバイナリーとしてに描くことに批判の声も少なかった。そのなかでイソベルはSNSを通して自分自身の考えを表明した。
hello there. this is all i have to say right now. love and compassion and solidarity. #IAmJoan #WeAreJoan @The_Globe pic.twitter.com/iz32C64otg
— izzy (@isobel_thom) August 13, 2022
昨年8月、『アイ・ジョーン』の上演前にイソベルが出した声明。現在も固定ツイートとなっている。
「ジャンヌは際立った歴史上の人物で、多くの人々、さまざまなジェンダーのアイコンであり、そのなかでも女性や私自身を含めたAFABピープル(出生児は女性として分類された人々)など大勢にとって重要な存在です。だれもあなたから歴史上のジャンヌを奪いません。あなたにとってジャンヌがどんな存在であろうとも、だれもあなたのジャンヌを奪いません。だれもジャンヌ・ダルクの性別を死後に変えることはできません。この芝居はアートであり、探求であり、イマジネーションであり、フィクションなのです。もしもこの芝居の内容についての判断を下したいのならば、まずは芝居を観ていただくことをお勧めします。いくつかの誤解は溶けるはずです」
そして最後にこう語っている。
「もしもノンバイナリーやトランスの人々の生き方に判断を下す必要があると感じるのであれば、一呼吸おいてまずは親切に振る舞う努力をしてみてください」
ネットフリックスの人気ドラマ『ザ・クラウン』で、若き日のダイアナ妃を演じたエマ・コリンもノンバイナリーであることを表明している。
エマ・コリンのインスタグラムより。『ザ・クラウン』ののちも、さまざまなドラマや舞台、ブランドのアンバサダーとして活躍している。
彼らのようにセクシャリティーをカミングアウトするZ世代のセレブリティはイギリスではここ数年で増え続けている。その勇気ある行為は、性別は男と女の二つだけではないと気づかせてくれる。そして、さまざまな性があることを可視化する大切さを改めて教えてもくれてもいるのだ。
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text: Miyuki Sakamoto
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。