ジャンヌ・ダルクがノンバイナリー、英国の舞台が話題です。

ロンドンのテムズ川南岸にあるシェイクスピア・グローブ座(以下グローブ座)は、シェイクスピアが活躍した15〜16世紀の劇場を模して作られた複合施設だ。

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中世にタイムスリップしたような外観のシェイクスピア・グローブ座。

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見上げると青空がみえる、屋外シアターとなっている。photo: John Wildgoose

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現在ここで上演されている「アイ、ジョーン」が大きな話題だ。

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活力溢れるステージに期待が集まる。photo:  Helen Murray

 

ステージセットも迫力満点。

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ジョーンとはジャンヌの英語名で、この芝居の主人公ジャンヌ・ダルクのこと。ご存知のようにジャンヌ・ダルクは15世紀にフランスとイングランドとの間で勃発した百年戦争で17歳の少女でありながらもフランス軍に従事し、勝利に導いたとされている歴史上の人物だ。

その半生を描いた舞台「アイ、ジョーン」が注目を集めている訳は、主人公のジャンヌ・ダルクを自分の性認識を男性・女性のどちらにも当てはめないノンバイナリーとして描き、劇中で使われる代名詞もThey/Themとしているからだ。

グローブ座は以下のように語っている。

「グローブ座はイマジネーションが育くむ場所です。私たちはシアターで過ごすひとときに、ステージの上での嵐や船の沈没、まったく似ていない一卵性双生児、ロバと恋に落ちた妖精の王女など、現実とは異なる事柄を楽しんでいます」

「何世紀にも渡ってジャンヌ・ダルクは文化的なアイコンであり続け、芝居や文学、映画などで取り上げられ、特別な女性として語られてきました。でもこの芝居ではシンプルに違う視点から捉えて、観衆に「もしも〜だったら?」と問いかけることにしたのです。このような疑問を投げかけることはシアターの務めでもあると考えています」

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ジャンヌを演じるイソベル・トム。演劇を学んだ大学を卒業したばかりのフレッシュさが魅力だ。photo: Helen Murray

しかし、戸惑う人たちも少なくない。近年、トランスジェンダーは女性ではないと発言するなど、生まれながらの性と性自認の相違に批判的なことで知られる作家のJK ローリングは「この次に言われること:ナポレオンは女性。何故ならばウォータールーの戦いで敗れたから」と皮肉を込めたツイートをしている。そのほかにも「平凡な少女として生まれながらも神の啓示を受け、男性たちを率いて母国を勝利に導く強いヒロイン」であるジャンヌが、女性ではないとすることに反発する声も多い。

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ジャンヌを演じるイソベル・トムはこの夏に王立ウェールズ音楽演劇大学を卒業したばかりの期待の新人で、自身もノンバイナリーであることをカミングアウトしている。イソベルは「いま私が言わなくてはならないこと。愛と思いやりと結束をこめて」とする文を固定したツイートとしてツイッターに載せている。

ツイートにつけられた#IAmJoan、#WeAreJoanのハッシュタグが、イソベルとの連帯を呼びかけている。

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「ジャンヌは際立った存在の歴史上の人物です。ジャンヌは多くの人々、様々なジェンダーのアイコンであり、そのなかでも女性や私自身も含めたAFABピープル(出生時は女性として分類された人々の意味)など大勢にとって特別で重要な存在です。

だれもあなたから歴史上のジャンヌを奪いません。ジャンヌがあなたにとってどんな存在であろうとも、だれもあなたのジャンヌを奪いません。だれもジャンヌ・ダルクの性別を死後に変えることはできません。この芝居はアートであり、探求であり、イマジネーションであり、フィクションなのです。

もしもこの芝居の内容について判断を下す必要があると感じるのであれば、まずは観劇をお勧めします。いくつかの誤解が解けるはずです。

もしもノンバイナリーやトランスの人々の生き方に判断を下す必要があると感じるのであれば、一呼吸おいて親切に振る舞う努力をしてみてください。

愛を込めて」

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脚本家のチャーリー・ジョセフィン(they/he)はガーディアン紙のインタビューで「(主人公をノンバイナリーとしたことへの批判は)個人的には、たびたび起こる差別の一種と感じ、特別驚きはなかった」と語っている。「それに捕らわれ過ぎることなく、自分たちのやるべきことをやろうと考えていました」。

「ジャンヌに若く力強いフェミニスト像を求める人は、それが見つけられると思います。新しいジャンヌを求めている人には、エキサイティングな芝居のはずです。この芝居を見たからといって、何かを失うことはまったくありません。むしろ世界は広がっていくはずです」。

舞台はエネルギーに溢れていて、さながらロックコンサートのようだとか。一階のスタンディングエリアのチケットは5ポンドで、観劇の機会が幅広い層に開かれているのも嬉しい。

歴史の冒涜なのか、新しい表現への挑戦なのか。まずは観劇することが必要だろう。でも今こうしてイソベルやチャーリーの言葉を読むだけで彼らが見せてくれるであろう舞台に心が踊り、すでに私も彼らの側にいると感じているのだけれども。

『I,Joan』
会期:〜10月22日
https://www.shakespearesglobe.com/whats-on/joan-2022/

text:Miyuki Sakamoto

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

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