イギリスにはビールを片手にパブでプレミアリーグなどの男子チームのフットボール(イギリスにおけるサッカーの名称)をTV観戦する習慣は浸透しているものの、近年急速に人気が上昇しているとはいえ女子フットボールが観られる店はまだまだ少ない。
そんな悩みを解消してくれたのがボーラー・フレンズ・コレクティブス(以下ボウラーFC) だ。フットボールファンで、クィア・コミュニティーのメンバーでもあるイベント・プロデューサーやDJ、ミュージシャンたちによって発足。すべての人が女子フットボールを楽しめるインクルーシブな場所作りを目標に、昨年のヨーロッパ選手権の際にイーストロンドンのホクストンにあるパブで試合観戦のパーティを開催した。その後もさまざまなイベントを企画して人気を集めている。
現在、開かれている女子フットボールのワールドカップ(W杯)ももちろん、イーストロンドンのホガートンに位置するシグネチャー・ブリューでイングランド代表の試合を中心にスクリーニングを行なっている。こだわりのビールやストリートフード、ライブミュージックも楽しめる賑やかさが自慢だ。
試合の流れに合わせて他のファンたちと共に一喜一憂。フットボールのスクリーニングの醍醐味だ。photography: Annabel Staff
演奏するミュージシャンたちも、フットボールのシャツを着用。photography: Annabel Staff
「今回のW杯は開催国のオーストラリアとニュージランドとの時差の関係で、これまでのほとんどの試合はイギリス時間の朝8時から11時のスタートでした。そんな早い時刻から人々が集まるか最初はとても心配したのですが、取り越し苦労に終わりました。イングランドチームの第一戦には200人近い人たちが参加してくれました」とボーラーFCを立ち上げたひとりで代表を務めるレイチェル・ゴールドは語る。
ボーラーFCのオリジナルのハットやスカーフも販売中。スカーフにはイングランドの監督、サリナ・ウィーフマンの似顔絵が。photography: Annabel Staff
イングランド戦だけではなく、アイルランド、ブラジル、フランスなどの試合にも大勢がやってきて、ロンドンがマルチカルチャーな都市であることを再認識したそうだ。
集まる人々は老若男女さまざま。「ボーラーFCを立ち上げた私たちは全員がクィアでもあり、そのために場所によっては歓迎されない、特にフットボール関係の場には受け入れてもらえないという苦い経験を何度もしてきました。だからこそ、ここはベイビーからご老人まで、誰もがリラックスして楽しめる場とすることをとても大切と考えています」
歌って踊って、盛り上がる人々。photography: Annabel Staff
家族全員でやってくる人たちも少なくなく、小さな子達も多いそう。一番熱心でエキサイトするファンは最も幼い子ども達ということもしばしばだとか。
「私たちは男子フットボールも女子フットボールも大好きです。しかし残念なことに男子フットボールは好きでも、女子は評価に値しないとする人もいます。でもそれはきっと、きちんと腰を据えて観戦をしたことがないからだと思っています」
「例えば先日はW杯の一次リーグで日本がスペインに圧勝した素晴らしい試合がありました。また東京オリンピックの金メダリストのカナダや、ブラジルやドイツら強豪が破れ、これまでノーマークだったジャマイカなどが決勝トーナメントへが勝ち進みました。
どのチームにもチャンスがあるのです。これは女子フットボールが年々めざましく進歩している証拠であり、いま私たちはその歴史的な過程を目の当たりにすることができるチャンスの真っ只中にいるのです」
「高い技術と試合への情熱を持ち、お互いをレスペクトし合う素晴らしいアスリートばかりです」とレイチェルは女子フットボールに太鼓判を押す。
昨年のヨーロッパ選手権では優勝したイングランド。W杯でも再びと、応援にも熱が入る。photography: Annabel Staff
難しいのは承知でW杯でベスト4に進むチームを予想してもらった。本当に予想不可能!と前置きしながら、彼女の選んだ4チームはイングランド、スペイン、オーストラリア、そして日本。「最終的にイングラドと日本が勝ち進んで、決勝はこのふたつのチームの試合となるかも?楽しみに待ちましょう!」
text: Miyuki Sakamoto

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。