クリエイティブ・ディレクターに就任後、ピーター・ドゥのデビュー・コレクションとなった「ヘルムート ラング」や、詐欺などで有罪判決を受け、現在は自宅軟禁状態になっているアンナ・デルヴェイ(本名アンナ・ソローキン)の家でショーが開催されたり。2024春夏のニューヨーク・ファッション・ウィークは、多くの話題を集めた。また錚々たるセレブリティがランウェイやパーティーに登場し、パンデミック前の盛り上がりを見せた。
クリエイティブ・ディレクターのレイチェル・スコット。「diotima」というブランド名はプラトンの「響宴」に登場する伝説上のキャラクターから。
ジャマイカ人の現代アーティストとして名高いローラ・フェイシーの彫刻が飾られた、プレゼンテーション会場。
そんな中、特に注目を集めたのが、今回初となるプレゼンテーションを行なった、「diotima」(ディオティマ)だ。ファウンダーでクリエイティブ・ディレクターのレイチェル・スコットは、ジャマイカ出身でブルックリンを拠点に活動する。自身のルーツであるジャマイカや、カリビアンのカルチャーを彷彿させるようなスタイルで、ドージャ・キャットなどの著名なアーティストに愛用されている。スコットは、2021年にブランドをローンチし、2023年度のLVMHプライズでは、初のジャマイカ人ファイナリストとなり、現在ではバーグドルフ・グッドマンを始め、有名なセレクトショップを中心に展開している。
かぎ編みが施されたジャケットと、蜘蛛の巣のように緻密なディテールがポイントのパンツ。
チェルシーのギャラリーで行われたプレゼンテーションに足を運ぶと、モデル達がドイリー(家具の上や皿の下の敷くレースの敷物)のようなかぎ針編みを使ったアイテムや、肌が透けて見えるビーズのトップ、ストライプのスーツに身を包んでいる。ショーは同じくジャマイカのアーティストである、ローラ・フェイシーとのコラボレーションで、会場内の床には、彼女の印象的なフォルムの彫刻がディスプレイされている。「コレクションのコンセプトは『ナイン・ナイト』で、これは誰かの死から9晩かけて弔う、カリブ海諸国の葬儀の慣習です。起源はアフリカにあり、アフリカの宗教的な伝統に基づいています」とスコット。この間、死者の家に集まった親族や友人達は、思い出を語らい、食事をともにして、賛美歌を歌う。9日目の最後の晩には、死者の新たな出発を祝い、葬儀よりもパーティーに近いイベントを開催する。「誰かの人生について、深く考える一方で、未来も祝う。同コレクションでは、そんなカリブ人であることの複雑さを表現したかった」と、話す。
マテリアルには、スコットのシグニチャーとも言えるメッシュを多く使用。クロシェをあしらったテーラードのジャケットやパンツは、綿密でまさに「複雑さ」を表現している。彼女自身のルーツに基づいたコンセプチュアルなスタイルに、今後も期待したい。
多くのメディアから絶賛されたプレゼンテーションは、アーティーな感じが漂う。
クロシェット編みの部分はジャマイカで作られたジャケット。フリンジのドレスと合わせたバランスも新鮮。
モデルに囲まれたレイチェル・スコット。
大胆なプリントのスカートとカフタン。
text: Azumi Hasegawa
長谷川安曇
東京出身、2004年からニューヨーク在住。フリーのライターとして活動しながら、映像制作にも携わり、キャンペーンやミュージックビデオのプロデュースとフィルムメーカーとしても活動する。www.azumihasegawa.com