英国ファッション協会によるプログラム「ニュージェン」はその名の通り、才能あるニュージェネレーションのデザイナーのためのプログラムだ。
毎年優れた若手を選出し、彼らが将来世界的に活躍できるように経済的にサポートしながらランウェイや展示会の開催を支援し、同時にビジネスの知識も授ける。かつてここから羽ばたいていったデザイナーは、アレキサンダー・マックイーン、キム・ジョーンズ、JWアンダーソン、シモーネ・ロシャなど、錚々たる名前が並ぶ。
「ニュージェン」が始動した1993年はイギリスが厳しい不況に見舞われた暗い時代だった。そんな時勢でも優秀なデザイナーたちをなんとか世に送り出そうと協会が考案、今年はスタートから30年の節目となる。それを記念して現在ロンドンのデザイン・ミュージアムでは「REBEL: 30 Years of London Fashion」 が開催されている。
展示風景より。photography: REBEL: 30 Years of London Fashion Sponsored by Alexander McQueen. Photo Andy Stagg. © the Design Museum
エキシビションの前半では「ニュージェン」の歴史を世の出来事と並べて伝える年表とともに、選ばれたデザイナーたちがロンドンの美術大学のファッション科在籍時代に手がけた卒業制作のスケッチブックや作品を展示し、彼らが個性を大切にしながら創造力を伸ばしていった過程を見せる。
「アートスクール」と題された一角には、モリー・ゴダードの大学卒業制作だった青いドレスが展示されている。photography: REBEL: 30 Years of London Fashion Sponsored by Alexander McQueen. Photo Andy Stagg. © the Design Museum
またロンドンの活発なクラブシーンの様子も伝え、それらがデザイナーたちに与えた影響も説く。
そうして育んだクリエイティビティやアイデアを携えて、各デザイナーたちが「ニュージェン」による支援のもとに自ブランド設立に結びつけていった過程を作品やコメントとともに紹介していく。展示作品のなかには、セレブたちが着用して大きな注目を集めた服も少なくない。
S.S.デイリーによるパンツは、ハリー・スタイルズが「ゴールデン」のMVで着用したもの。photgraphy: REBEL: 30 Years of London Fashion Sponsored by Alexander McQueen. Photo Andy Stagg. © the Design Museum
後半ではファッションショーの息吹を伝える。バックステージを再現したコーナーを抜けると、ランウェイを闊歩しているようなポーズのマネキンたちがJWアンダーソン、クレイグ・グリーンなど6人のデザイナーの服を見せていて、さながらショー会場にまぎれ混んでしまったかのよう。そのほかに会場内には過去30年間に選出されたデザイナーたちの作品を展示。カラフルでユニークなデザインであふれた会場内は圧巻だ。
ランウェイを模した展示風景。photgraphy: REBEL: 30 Years of London Fashion Sponsored by Alexander McQueen. Photo Andy Stagg. © the Design Museum
さまざまな才能が作り出した作品が並ぶ。photography: REBEL: 30 Years of London Fashion Sponsored by Alexander McQueen. Photo Andy Stagg. © the Design Museum
またアレキサンダー・マックイーンの特別コーナーは必見だ。セントラル・セント・マーチンズ美術大学院時代の卒業制作のランウェイの映像や、「ニュージェン」の支援のもと1993年にリッツホテルで見せたコレクション「タクシードライバー」の写真などとともに、初期の貴重な作品を展示している。
ほとばしる才能が感じられる、アレキサンダー・マックイーンの展示コーナー。photography: REBEL: 30 Years of London Fashion Sponsored by Alexander McQueen. Photo Andy Stagg. © the Design Museum
ロンドンが若いデザイナーたちの才能を刺激しながら彼らを育む特別な街であることを、改めて教えてくれるエキシビションとなっている。
text: Miyuki Sakamoto
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。