ユダヤ系移民が支えたロンドンファッション史の展覧会。

個性ある店が数多く並び、日夜を問わず活気溢れるエリアとして知られるロンドンのスピタルフィールズと、そこから続くホワイトチャペル。19世紀初めから20世紀初頭にかけては、移民や難民としてヨーロッパから渡ってきたユダヤ人たちが多く居着いたエリアとしても知られている。ここで彼らは服作りの職人として腕を磨き、のちにロンドンの表舞台でファッションを支える存在となっていった。それを伝える興味深い展覧会「ファッション・シティ」が、ミュージアム・ロンドン・ドックランズで開催中だ。

---fadeinpager---

1222Fashion-City-West-End-©-Museum-of-London.jpg

服とともにダイアナ妃やジミー・ヘンドリックスらの写真も並び、ユダヤ人の手によるファッションが幅広く愛されていたことがわかる。photography: © Museum of London

1222Fashion-City-West-End,-High-Street-©-Museum-of-London.jpg

60sのミニ丈やボヘミアン調のドレスなど、ロンドンならではの服や小物が数多く並ぶ。photography: © Museum of London

---fadeinpager---

エキシビションの前半ではイーストエンドと呼ばれるスピタルフィールズ周辺においてのユダヤ人たちの歴史を伝える。

ロンドンでは古くから東ヨーロッパやロシアからのユダヤ系移民を受け入れていたが19世紀後半からその数は増大し、1880年代から1910年代の間には15万人もが渡英。その70%はイーストエンドに居を構えたという。彼らの多くは当時周辺に無数にあった小さな縫製工場でテーラーやドレスメーカーとして職を得る。衣服関係以外にも、カバンや靴、傘などを作る職人や商人、写真館の技師などとしても働いていた。

---fadeinpager---

1222Schneiders-Garment-Factory,-Stepney-©-Museum-of-London.jpg

当時のイーストエンドの縫製工場で働く人々。photography: © Museum of London

---fadeinpager---

現在もイギリスの人々の暮らしを支えている紳士服店「モス・ブロス」の創業者や、大手スーパーチェーンの「マークス&スペンサー」を設立した一人もユダヤ系移民だ。
1901年にはショーディッチ・カレッジが開校。そこでは多くのユダヤ人たちに服作りの技術を教えた。大半のスタッフもユダヤ人だったという。

---fadeinpager---

Dressmaking student at Shoreditch College © Henry Grant Collection  Museum of London.jpg

ショーディッチ・カレッジでドレスメーキング学ぶ学生。ショーディッチ・カレッジは、数々の有名デザイナーを輩出しファッションの名門校として知られるロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの前身でもある。photography: © Henry Grant Collection  Museum of London

---fadeinpager---

1912年になるとイーストエンドにリバプールストリート駅がオープンし、地下鉄セントラルラインで中心街オックスフォード・サーカスまで容易にアクセスできるようになる。これをきっかけに、ユダヤ系職人たちは繁華街にあるデパートや店で働く機会を得て、新たな飛躍を見せる。

後半ではロンドンの中心街ウェストエンドにおける彼らの活躍とともに、ファッション史に名を残したデザイナーたちの功績を伝える。
オットー・ルーカスは、エレガントな帽子作りで知られるデザイナーだ。彼の作品は有名ファッション誌の表紙を何度も飾り、1950年代の英国ファッションに大きく貢献した。

---fadeinpager---

1222Otto-Lucas-with-models.-Credit---Ron-Stilling_ANL_Shutterstock.jpg

オットー・ルーカス。彼がデザインした帽子をかぶったモデルたちと。photography: Ron Stilling ANL Shutter-stock

1222Hat-designed-by-Otto-Lucas-©-Museum-of-London.jpg

オットー・ルーカスによるヘッドピース。photography: Museum of London

---fadeinpager---

スウィンギングロンドンと呼ばれた1960年代の後半には、当時ファッションのメッカとされたカーナビーストリートの店の半数以上はユダヤ人のデザイナーやオーナーによるものだったという。

---fadeinpager---

1222Carnaby-Street-during-the-'swinging-60s'-©-Henry-Grant-Collection--Museum-of-London.jpg

活気にあふれた60年代のカーナビーストリート。photography: Henry Grant Collection  Museum of London

---fadeinpager---

カーナビーストリートと人気を二分したキングスロード界隈にあった「ミスターフィッシュ」はマイケル・フィッシュによる店で、ミック・ジャガーらロックスターが顧客だったことでも知られている。

---fadeinpager---

1222Mr-Fish-maxi-smoking-dress-with-beaded-panels-(Courtesy-Collection-of-L.-Kingston-Chadwick).jpg

「ミスターフィッシュ」によるマキシ・スモーキングドレス。ドレスとはいえメンズ。デヴィッド・ボウイも愛用していた一着だったとか。photography: Courtesy Collection of L. Kingston Chadwick

1222Kipper-tie-designed-by-Mr-Fish,-c.-1968-9.jpg

太めでカラフルで大胆なプリントのキッパータイは、1968〜69年にフィッシュがデザインして大ヒットした。photography: Museum of London

---fadeinpager---

パートナーのベリンダとともに「ベルヴィル・サスーン」を率いたデイヴィッド・サスーンは、ダイアナ妃のお気に入りだったデザイナー。彼女がハネムーンに持参したドレスやスーツ、ウィリアム王子妊娠の発表の際に着用していたコートはこのブランドによるものだ。大切なシーンでのアウトフィットに選んでいることから、いかに彼女がサスーンを信頼していたかが分かるだろう。

---fadeinpager---

1222Bellville-Sassoon-coat,-worn-by-Princess-Diana-©-BATMC (1).jpg

ダイアナ妃が着用していたものと同じデザインの「ベルヴィル・サスーン」のコート。photography: Fashion Museum Bath

1222Princess-Diana-Leaving-The-Guildhall.-Credit---Tim-Graham-Photo-Library-Getty-Images.jpg

1981年のコートを着たダイアナ妃。photography: Tim Graham Photo Library Getty Images

---fadeinpager---

ロンドンを専門とする同博物館が、ファッションというフィルターを通してこの街を見つめ直す視線が新鮮だ。そしてロンドンの歴史と文化を支えているのはユダヤ人を筆頭に、さまざまな人種であることにも改めて気付かせてくれる。

ミュージアム・ロンドン・ドックランズ
https://www.museumoflondon.org.uk/museum-london-docklands

 

在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Business with Attitude
airB
言葉の宝石箱
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories