冬の風物詩といえば、クリスマスツリーと街中のイルミネーションがおなじみだが、日照時間が短く、寒さが厳しい北欧ではこの時期、あちこちで灯される電飾やキャンドルの光がオアシスのように人々の心を癒やしてくれる。とはいっても、今年はロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー不足が懸念され、たとえば毎年ニュースで取り上げられる市内中心部の最高級ホテル「ホテル・ダングレテール」のイルミネーションが中止になるなど、例年より地味な印象だ。
チボリのレトロな観覧車バロングンガーからの景色。正面左の高層ビルは建築家アルネ・ヤコブセンが手がけたロイヤルホテル。 photography: Jan Oster
そんな中、コペンハーゲンの中心部に1843年に開園した世界初のテーマパークチボリのイルミネーションは例年通りの華やかさで、国内外からの訪問者を喜ばせている。
元々、チボリの開園期間は北欧のベストシーズンにあたる4月から9月までだったが、1994年よりクリスマス期間もオープンするようになった。チボリのWEBサイトによると、2021年の年間入場者はおよそ450万人、そのうちクリスマスの入場者は45万人あまり。コロナ禍前よりは少ないとはいえ、デンマークの人口は580万人余りだから、チボリの人気ぶりがわかる。
1907年に完成し、現在も人気のクラシックなアトラクションスヴィングカルーセル。後方はチボリコンサートホール。photography: Jan Oster
さて、クリスマス期間のチボリの楽しみ方は、イルミネーションだけでなくクリスマスマーケットやコンサートなどもあるが、おすすめなのは夕暮れ時に観覧車などの高い位置から市内が眺められるアトラクションに乗ること。夜空にコペンハーゲン中心部の建物がシルエットのように映り、絶景が満喫できる。
チボリだけでなく、クリスマス時期の光のイベントといえば、12月13日の聖ルシア祭。元々はカトリックの聖人祭だが、冬が長く暗い北欧諸国では、光のイベントとして行われるようになったという。この日には白いドレスの少女たちが聖ルシアに扮して冠を被り、手にはキャンドルを持ち、教会や学校などでイタリア民謡で知られる「サンタルシア」を歌いながら行進する。その慣わしにちなみ、運河の町コペンハーゲンでは、電飾をつけたカヤックやパドルを漕ぐ有志たちが集結して、水上で光のパレードを繰り広げる様子を沿岸で応援したい。
サンタ帽を被ったカヤック愛好者たちによる聖ルシア祭の水上パレード。カヤックの電飾が運河に反射し、クリスマス気分を盛り上げる。 photography: Daniel Rasmussen - Copenhagen Media Center
そして、忘れてはならないのがクリスマスツリー。定番のコペンハーゲン市庁舎前の大きなツリーだけでなく、シェークスピアのハムレットのヒントになったといわれる、ユネスコの世界遺産クロンボー城の庭のツリーも情緒がある。城内で開催される、クリスマスマーケットも覗いてみたい。
冬のコペンハーゲンは、心がほっこりする風景に溢れている。しっかりと着込んで、あちこちを歩き回れば、知られざる絶景が見られるにちがいない。
コペンハーゲンから電車で45分、ヘルシンガーの海沿いに建つ、世界遺産のクロンボー城のツリーも必見。photography: Thomas Rahbek - Copenhagen Media Center
text: CHIEKO TOMITA
冨田千恵子
コーディネーター兼ライター。デンマーク在住30年以上。デザイン、建築、アート、街並み観察、犬ネタが得意なジャンル。音楽はラヴェルが好きな北欧のフランスファン。
Instagram: @chi.tomita photography: Kazue Ishiyama