今年9月、ロンドンのユニクロ リージェントストリート店にリ・ユニクロ スタジオがオープンした。ユニクロで購入した服を長く着続けられるように修繕したり、不要となったアイテムを有意義に使い回すための数々のサービスを提供する場所だ。
19世紀の歴史的建造物内に店を構える、ユニクロ リージェントストリート店。
リ・ユニクロ スタジオがあるのは1920年代に理髪店だった地下1階。当時のアールデコ様式をそのまま残した美しい空間だ。
ほつれや穴が出来てしまったアイテムをリペアカウンターへ持参すると丁寧に直してくれる。
プラスアルファを求めるのならばリメイクのコーナーへ。日本の伝統的な手芸である刺し子などを使ったテクニックで服の修繕や補修、さらにはカスタマイズをしてくれる。
刺し子による装飾で、シンプルなデニムジャケットが個性あふれる一着に。
ダーニングのテクニックで修理したニット。あえて地とは違う糸を使ってキュートに仕上げてくれる。
---fadeinpager---
これらのサービスはロンドンをベースとする縫製スタジオStudio Masachukaとのコラボレーションによるもの。長年愛用して痛んでしまった衣服を直して着続けることを可能とするだけではなく、カスタマイズによって再生し、自分だけの特別な一点に昇華する。
服作りを通して日本文化を発信することに力を入れているStudio Masachuka。その方向性がユニクロと一致して、今回のコラボが実現されたという。
Studio Masachukaを主催する森川真彦さん。縫製の仕事をスタートする以前の学生時代に和柄の布でデニムをカスタマイズすることを趣味にしていたとか。「このコラボは原点回帰のよう」と微笑む。
---fadeinpager---
刺し子は近年イギリスでもじわじわと注目を集めている手仕事のひとつ。手芸名人たちがその技を競い合う、BBCの人気TV番組「ソーイングビー」でも刺し子を使ったカスタマイズが取り上げられたほどだ。リメイクコーナーのカウンターでは刺し子の糸や針、日本の裁縫道具なども販売していて、買い求める人も少なくないそうだ。「誰にでも簡単にできるのも、刺し子の利点なのでしょう」と森川さんは推測する。
ハサミや裁縫用チョーク、裁ちばさみなども並ぶ。その優れた性能に惚れ込んで、老舗ビスポーク店が並ぶことで知られるサヴィルロウで働く職人たちも購入していくのだとか。
---fadeinpager---
またスタジオ内にはリサイクルボックスも設置。不要になったユニクロの服を入れると、難民キャンプや被災地への緊急災害支援物資として必要としている人に届けてくれる。
ボックスに回収されながらも、リユースに適さないものはカスタマイズの素材として使われることもあるそうだ。人気商品でもあるダウン類は、新たな服へと生まれ変わらせる「服から服へのリサイクル」の素材として活用されている。
スタジオ内に設置されたリサイクルボックス。奥には燃料や新たな素材とされる過程を説明したパネルも展示されている。
---fadeinpager---
持ち込まれた服だけではなく、刺繍や染めなどでスタマイズした一点ものもスタジオ内で展示・販売している。さらにはエコな洗濯アイテムやニットの毛玉取りなど、愛用の服を大切に扱って長持ちさせながら、気持ちよく着るための雑貨も揃えている。
部分的に染め付けを施し、シンプルな服に新たな表情をプラス。
エコな洗濯グッズも。イギリスではまだ知る人が少ない洗濯ネットも並ぶ。
興味を持ったら自分でもトライできるようにと、刺し子や修繕、染めのハウツー本も扱う。
---fadeinpager---
今後は刺し子をはじめとする楽しいリペアやカスタマイズのワークショップも開催を予定している。受注するカスタマイズについても「技術をより高め、さらに高品質な商品を製作することを目標としています。刺子を含めた、金継ぎ、書道、藍染などの日本の文化にリンクする手法を取り入れて制作していきたいですね」と森川さんは語る。
お気に入りの服を長く、自分だけの大切な一点として着続けることをブランド自ら深く追求し提案する、その新たな試みが刺激的だ。
103-113 Regent Street, London W1B 4HL
text: Miyuki Sakamoto
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。