連載【石井ゆかりの伝言コラム】第4回「卒業」&「桜」

第4回「卒業」&「桜」

日本の春はなんと言っても桜のイメージですね。淡いピンク色の風景を真っ先に思い浮かべる人が多いはずです。
同時に、日本では学校が「卒業」の時期を迎えます。日本は4月始まりですが、海外では9月が始業シーズンの傾向があるそうです。
星占いの世界では、春分の日が「1年の始まり」です。カレンダーでは元旦が始まりですが、星占いは3月21日頃が節目となっています。ゆえに、日本の「卒業・入学」の節目は、星占いの節目とほぼ、重なっているわけです。

桜は多くの人に好まれ、いつ咲くかいつ咲くかとハラハラしながら見守るお花見ファンも少なくありません。
ですがその一方で、桜があまり好きではない、という意見を聞くことがあります。
私の知人にもそういう人がいて、理由を聞くと「人の入れ替わりがある時期だから」とのことでした。できるだけ気心の知れたメンバーで長くやっていきたいのに、春はどうしても、異動や転職といった「メンバー構成の変化」が起こりやすい。それがストレスで仕方がない、というのでした。桜のイメージと、周囲に見知らぬ人がやってくるイメージが、重なってしまうのだそうです。

また、ほかの理由で「桜が嫌い」という意見もあります。なぜか、桜は人の死を連想させるので嫌だ、というのです。これを聞いて、「源氏物語」で紫の上がちょうど桜の季節に死んだ折、光源氏が「深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け」 という歌を引用するシーンを思い出しました。
儚く散る桜が「去りゆくもの」、すなわち卒業や死と重なるのは、多くの人の心になじむイマジネーションのようにも思われます。

京都の伏見区にはこの歌にちなんだ「墨染」という地名が残っており、京阪電車の駅名にもなっています。深草駅、藤森駅、墨染駅、と続きます。実は学生時代、私はこの墨染を最寄り駅としていました。初めてこの地を訪れた時、古文で習った歌そのままの地名があることにワクワクしましたし、ちょうどその頃、桜が咲いていた記憶があります。

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桜の開花は例年、関東地方の平野部、西日本では春分の頃です。春分・秋分といえば、日本ではお彼岸の中日、つまり「あの世(彼岸)と この世(此岸)の境目が薄くなる」時期です。桜の花が咲く頃に、懐かしい死者と再会できるわけで、桜のイメージはもともと、死の世界と隣り合わせだった、と言えるかもしれません。
今の日本で「桜」といえばソメイヨシノですが、この品種は江戸時代に、人工的に交配された品種です。発祥の地が東京の染井村だったので、桜の名所として有名な「吉野」とあわせてソメイヨシノとされたようです。この染井村には染井霊園という墓地があって、私の祖母はその近くに産まれたため、ソメイヨシノと墓地の話をときどき、聞かされました。

墨染、死の世界、桜。私の中ではそれらのイメージは矛盾なくグラデーション的に繋がっていて、満開の桜を見上げていると、すうっと幽玄の世界に入っていける気がします。
そこには確かに、怖ろしいような気配もあるのですが、それ以上に、時間の節目に入り込むことで心の中にわだかまった日常の澱のようなものが濯がれていくような、清らかな心地よさも感じられるのです。

物事が終わることを、私たちは基本的に、忌み嫌いますが、「卒業」という言葉にはあまり、ネガティブなものは含まれていません。卒業はあくまで祝福すべきことであり、ある世界からもう一つの世界へと、望みのままに旅立っていくことだからです。卒業は、入学の段階ですでに目指されていることです。わかっていることであり、目標です。
死もまた、生まれた瞬間に、それがわかっています。いつかはわからないけれど、とにかくいつかは必ず死ぬ。そのことが、生まれた瞬間に決定されます。私たちは日常的に、死をできるだけ遠ざけようとしますが、生きているだけで日々、自分自身の死に近づいていきます。
「終わり」がただ、嫌な怖いだけのもの、という一面的な捉え方を、春と桜は、軌道修正してくれる存在のようにも思われます。

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