連載【石井ゆかりの伝言コラム】第19回「梅雨」&「祝日がない」

第19回「梅雨」&「祝日がない」

「季節の変わり目」という言い方がありますが、梅雨時はまさにそういう時期と言えるように思います。「春」にも「夏」にも入りきっていない、6月。じめじめした気候と、祝日がないのとで、何となく嫌われがちな6月ですが、私はどうも6月を突き放せないのです。なぜから、私が6月生まれだからです。妙に季節になじめず、歓迎されないあの感じは、とても人ごととは思えません。

先ごろ、妙に気分が落ちこむ日がありました。何の理由もないのに強烈な不安に襲われ、仕事が手につかなくなったのです。幸い、2,3日でその気持ちは落ち着いたのですが、「これはこまった」と思いました。というのも、私ももう40代後半にさしかかろうとしており、そろそろ更年期障害の季節(?)なのです。正直「とうとう、来るものが来たか」と思いました。ならば今後こういう症状がまたいつ来るか解らない、と思うと、それ自体が不安になってきました。

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そこで、いつもお世話になっている漢方薬屋さんに相談してみたのです。
「このあいだ、これといって理由もないのに突然、強烈な不安に襲われまして、困りました」
「ああ……毎年春にそうなりませんか? 春はねえ、そういう方が多いんです」
こう言うと、彼女はおもむろに一枚の紙を取り出し、私に差し出しました。
「よかったら、これを試してみて下さい」
受け取ったその紙にはなにやら説明が書かれていて、下の方にうすべったい小さな袋が貼り付けられていました。
どうやら袋の中に、試供品の漢方薬が入っているのでした。
「これは、不安になった時とか、緊張したときなどに舐めると、落ち着くみたいです」
「舐めるんですか?」
「そうです、板みたいになっていて、飴ではないんですけど、舐める方がいいのです。ただ、独特の匂いと味があるので、その匂いが効くみたいなんですけど、苦手だったらすぐ飲み込んでも大丈夫です」
落ち着くみたいです、ということは、この人はこれを舐めたことがないのです。おそらく何人かのお客さんにこれを処方して「スゴイ味やったで!ちょっとのみにくかったわ!」「でも落ち着いた!効いたわ!」みたいな意見が集まったのでしょう。

なるほど、いざとなったらこれを、舐めればいいんだ(まずいらしいけど!)!
私は、いつ不安になってもすぐに舐められるように、この小さな袋をサイフの中にしまいました。うすべったいのでちょうど良くおさまりました。まるで正月に「中吉」と出たおみくじを持ち歩くように、心強い気持ちになりました。

それ以降、ちょっと不安になったり、落ちこみそうになったりしても、すぐに「あの薬が、サイフにちゃんと入っているぞ! いざとなったら、舐めるぞ!」と思えます。それで、微かな不安もけっこう、落ち着くようになったのです。
「なるほど、これはむしろ、ある種の薬効と言えるのではないか……!」
私はそう思いました。
たとえば「プラセボ」、つまり何の有効成分もない錠剤を飲んでも「効く」と思えていれば効果が表れてくる、という現象があるそうです。でも、この平たい漢方薬効果には、プラセボ以上のものがあります。というのも、私はこのパッケージを開いたことがなく、ゆえにこの薬の本体を見たことがないのです。それでも「あの薬がサイフに入っている!」というだけで、意味不明の不安という症状が軽減するのです。持っているだけで効く薬……、何の副作用もありません。画期的です。

更年期障害ということをよく耳にしてはいたのですが、実際に自分の身に迫ってくると、また違った趣を感じます。なんとなく、更年期とは「6月」に似ている気もしないではありません。梅雨のうっとうしさは更年期障害の様々な症状のうっとうしさに通じますし、祝日がないのは、結構忙しい年代だということに通じますし、春でも夏でもないのは、若いようで若くもない、でも老いているかというとそうでもない、みたいなところに通じる気がします。もちろんこじつけなんですけれども、「長い雨も、いつかは晴れる」ことが、「どんな不安も辛さも、いつかは終わる」ということに通じるなら、わずかに希望が持てるような気もしたのでした。

 

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