賞レース総なめ?『ノマドランド』の製作費にみる、MeeTooのその後。

Society & Business 2021.02.22

文/安部かすみ(在ニューヨークジャーナリスト、編集者)

東京五輪組織委員会の元会長、森喜朗氏の女性蔑視発言がしばらく問題になった。一方で別の角度からは、今回の騒動は年齢差別やネットリンチにあたるのではないかといった声も、少しずつ聞こえている。これらを総合的に前向きに考えるならば、さまざまな視点でこの問題が議論されたことで、日本のみならず世界中にいまだ根強く残る性差別(ジェンダー)問題を、人々が改めて考えるきっかけになったのは確かだろう。

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MeToo後のハリウッドは変わったのか?

アメリカでは、第78回ゴールデングローブ賞(現地時間2月28日)と第93回アカデミー賞(現地時間4月25日)というハリウッドの2大祭典が、新型コロナウイルスの影響により通常より1~2ヵ月遅れで開催される予定だ。これらの祭典では、日本で騒動になった女性蔑視問題とはまた別のジェンダー問題がある。

iStock-Antonina Owen.jpgphoto:iStock

オスカーのジェンダー問題と言えば2018年、セクハラ騒動が端を発した#MeTooムーブメントを思い出すだろう。この騒動により、ハリウッドの映像業界で長年渦巻いている性差別や女性蔑視が、現代のアメリカにおいてもいまだ存在していることを人々が知るきっかけになった。

アメリカの映画界はまさに伝統的な男社会であり、男性クリエイター陣が牛耳ってきた。真の平等に向け改善がなされている近年においては、受賞候補者の男性と女性のアンフェアな比率も指摘され、議論されている。

そんな中、今年の祭典は「これまででもっともダイバーシティ(多様な顔ぶれ)な大会となる。問題が解決されたわけではないが」と、2月10日付のニューヨークタイムズ紙が報じた。

#MeTooムーブメントの渦中だった3年前、ゴールデングローブ賞の最優秀監督賞発表の際、ナタリー・ポートマンが壇上で「候補者はすべて男性です」と辛辣に皮肉ったのは記憶に新しい。その一撃が効き始めたのか、今年の同部門ではこれまででより多くの女性クリエイターがノミネートされている。

たとえば、同部門の候補者の過半数が女性だ。女性監督による作品は、『ノマドランド』(クロエ・ジャオ監督)、『あの夜、マイアミで』(レジーナ・キング監督)、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督)。男性監督による作品は、『マンク』(デヴィッド・フィンチャー監督)、『シカゴ7裁判』(アーロン・ソーキン監督)。 

director.jpgクロエ・ジャオ。1982年、中国、北京生まれ。北京とイギリスのブライトン育ち。アメリカ移住後、マウント・ホールヨーク・カレッジで政治学を、ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。今年のゴールデングローブ賞では『ノマドランド』で<ドラマ部門>の監督賞、脚本賞にノミネート。前作『ザ・ライダー』は17 年のカンヌ国際映画祭監督週間でプレミア上映され、アート・シネマ賞を獲得。今年公開予定のマーベル・スタジオの最新ヒーロー超大作『エターナルズ(原題)』の監督にも大抜擢されている。

待機作に、マーベ・スタジオの『エターナルズ』(21・原題)がある。
main.jpgゴールデングローブ賞<ドラマ部門>作品賞、主演女優賞にもノミネートされている『ノマドランド』は、今年の賞レースの主役。●監督・脚本/クロエ・ジャオ ●出演/フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ ●2020年、アメリカ映画 ●本編108分 ●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン  ●2021年3月26日(金)より全国にて公開。(C) 2020 20th Century Studios. All rights reserved. 

男性が支配してきた長い歴史と照らし合わせてこれらの顔ぶれを見てみると、間違いなく大きな進歩と言えるだろう。しかし、より細かいところに注目すれば、平等に近づいているようでそうではない、いわゆるダブルスタンダードな実情が見え隠れしている。

製作費用を比べてみる。『ノマドランド』は500万ドル弱(約5億円)、『あの夜、マイアミで』が1,690万ドル(約17億円)、『プロミシング・ヤング・ウーマン』はその間くらい」(同紙)。一方で『マンク』は2,500万ドル(約25億円)、『シカゴ7裁判』は3,500万ドル(約35億円)といわれている。男性監督と女性監督を比べて、これだけの開きがあるのだ。

これらの格差同様に、人種格差も根強く残っていると記事は指摘している。アメリカの祭典のみならず、英国アカデミー賞(2021年4月11日開催)などもそうだというから、アメリカだけの問題ではなさそうだ。

今年のアカデミー賞やゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞は、そんな点に注目しながら観てみると、これまでと違った見方で楽しめるかもしれない。

安部かすみ KASUMI ABE

在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2007年よりニューヨークの出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイトで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。

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