アメリカで話題になった22歳の日本女性が目指すものとは?

Society & Business 2021.03.06

文/安部かすみ(在ニューヨークジャーナリスト、編集者)

あるひとりの日本人女性の活躍が国境を超え、アメリカでもスポットライトを浴びた。

能條桃子(のうじょうももこ)さん(22歳)は、慶應義塾大学経済学部4年生。学生でありながら、U-30世代に政治や社会の情報を発信する一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN 」の代表理事も務める。

森喜朗氏の女性蔑視発言を受け、能條さんら11人の有志が中心となって再発防止を訴えるべく、Change.org やソーシャルメディアで声を上げた。その結果、森氏は東京五輪会長職からの辞任に追い込まれ、その行動力が米主要メディアで高く評価をされたのをご存じだろうか。

アメリカで日本人アクティビストにスポットライトが当たるのは珍しく、日本の職場で女性がハイヒールおよびパンプスの着用を義務づけられていることに抗議した#KuToo運動の石川優実さん以来かもしれない。

article_nojo.JPG能條桃子さんは、1998年生まれ。2019年にInstagramで「NO YOUTH NO JAPAN 」を立ち上げ、その後一般社団法人化。 photo:MOMOKO NOJO

通信社、ロイターは「Don't be silent: How a 22-year-old woman helped bring down the Tokyo Olympics chief」(22歳女性が東京オリンピック会長の辞任にどう影響したか)と報じ、「#DontBeSilentキャンペーンは、2週間足らずで15万を超える署名を集め、森氏に対する世界的な怒りの刺激となった」と評価した。

「An ‘Old Men’s Club’ Dominates Japan. The Young Just Put Them on Notice」(年寄りの男性たちが日本を支配。若者は声を上げ始めた)と報じたのは、「ニューヨークタイムズ」だ。

「若者は年長者に静かに従うように教えられている国で、いま最も力を持つのは20代の女性たちのようだ」と能條さんらの活動を評価し、「厳格なヒエラルキーのある日本社会で変化を起こすのは時間がかかるが、ソーシャルメディアが若い世代にとって解決の糸口になる」と論じた。

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「もっとドラスティックな変化が求められている

これら海外での評価について、本人はどう感じているだろうか?能條さん自身に話を聞いてみた。

――活動のモチベーションは何だったのでしょうか?

いちばん大きなモチベーションは、デンマークに留学中、日本よりジェンダー(男女)平等が実現されている実例を目にできたことです。デンマークはメッテ・フレデリクセンさんという40代前半の女性が首相で女性議員比率が高い。「女性」を意識させられる機会が少ない国です。

そのような社会の空気感を目の当たりにし、自分が動く必要性を感じました。また、中学の先生から「可愛い制服が女子にとって高校選びの基準になる」と言われたり、大学の同級生から「奥さんには専業主婦になってほしい」という声が聞こえてきたりしたことなども、ジェンダー問題を意識する動機に繋がっています。

――#DontBeSilent と声を上げ、15万を超える賛同を得ました。SNSの力やご自身の発信力について、どう思いますか?

森元会長の問題の発言を聞いて、まず恥ずかしいと思いました。まだこんなことを言う人が権力ある地位にいるのか、誰も止めなかったのかと。でもまさかこんな大きな動きになるとは思っておらず、驚いています。問題発言がうやむやにされることなく、きちんと対処される前例ができたことは喜ばしいことです。

ひとつ残念なのは、一部で真意が伝わっていなかったことです。実は、私たちは署名活動の中で辞任を求めてはいませんでした。発言を個人の問題に矮小化せず、社会の問題として発信する必要があると考え、発言の裏にある組織の体制や社会構造に声を上げたつもりでしたので、求めていたのは会長の処遇の検討、再発防止策の策定、女性理事の4割達成でした。でもSNSを見ると「オリンピック中止派」「森氏への個人攻撃」と捉えられた方もいるようです。

――海外でも注目されたことについてどう思いますか?

日本がジェンダー平等推進に多くの課題を抱え、世界に遅れをとっている状態は残念ですが、同時に少しずつ変えていこうと動いている人たちがいることを知ってもらえたのはうれしいです。また、海外の声が変化の後押しを作った面もあり、ありがたく思います。

――日本が今後変わり真の平等を得るために、何が必要だと考えていますか?

ジェンダー平等をキャッチフレーズだけにせず、心地悪いことも受け入れ必要な変化を作っていく覚悟が必要でしょう。役員・管理職の女性比率を上げるなど大きな動きを起こさなければ、緩やかな変化に身を任せるだけとなってしまいます。女子差別撤廃条約発効、男女雇用機会均等法制定から36年以上経ってもこれだけジェンダー平等が達成されていない現状を見ると、もっとドラスティックな変化が求められていると思います。

安部かすみ KASUMI ABE

在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2007年よりニューヨークの出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイト、ラジオで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。

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