イギリス音楽協会を動かした、リナ・サワヤマの功績。

Society & Business 2021.03.11

文/坂本みゆき(在イギリスライター)

アーティストとしてロンドンを拠点に活動をするリナ・サワヤマ。デジタル時代の革命家とも称される彼女は、4歳で家族とともに渡英。13歳から開始していた音楽活動を名門ケンブリッジ大学を卒業後に本格的にスタート。作詞作曲はもちろんミュージックビデオのディレクションも自ら手がける一方で、モデルとしても活躍する。

そんな多彩な彼女はいま、イギリス音楽業界と人々の価値観を変える功績を挙げて話題を集めている。

210309_Image from iOS (13).jpg1990年、新潟県生まれのリナ・サワヤマ。

ことの始まりは2020年。リナはアルバム『SAWAYAMA』を発表して高い評価を得るも、イギリスでその年に最も突出した作品に贈られる「ブリットアワード」のノミネートの候補対象から外されることに。その理由は彼女がイギリス国籍を所持していなかったから。

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昨年4月17日にリリースされたデビューバルバム『SAWAYAMA』に新曲を加え12月にリリースされたデラックス盤では、雇用保障やギグエコノミー(オンライン上のプラットフォームを通じて短期的に働くスタイルやその市場)を歌った曲なども収録された。水原希子とも親交が深いことで知られる。『SAWAYAMA』Dirty Hit ¥2,970

四半世紀以上に渡ってイギリスで暮らす彼女は、イギリスでの生活や仕事で制限を受けない永住権は持っているが、現在日本で暮らす親とのつながりを大切に考えているとの理由でイギリス国籍を所得していない。

おそらく海外に暮らす大多数の日本人は、リナ同様にその地に暮らす資格は持っていても国籍は所得していない。その理由のひとつに、日本は成人の二重国籍を認めていないことがあると思う。もしも他の国籍を取れば日本の国籍は放棄しなくてはならない。たとえ海外に根を下ろしていても、故郷となる国とのつながりはそう簡単に断つことはできない。一方で、ふたつ以上の国籍を持つことはイギリスで暮らしているととても身近だ。たとえば私の息子のクラスメートのおよそ半分は多重国籍者だ。でも私は、自分の人生で日本とイギリスの両方をとても重要と考えていても、祖国の決まりでひとつの国籍しか所持できない。そしてそれをイギリスの友人たちに話すととても驚かれる。

ノミネートから除外されたリナの悲痛の声を受けて、ファンたちは#SawayamaIsBritish(サワヤマはイギリス人)というハッシュタグで彼女を支援。一時はそれがSNSを埋め尽くすほどとなった。そして年が明けた2021年。リナの行為は無駄ではなかったことが証明された。

「ブリットアワード」と、もうひとつのイギリスの権威ある音楽賞「マーキュリーアワード」を主催する英国レコード産業協会は数回に渡ってリナと話し合いを持った後に、今年からは両賞の審査基準を変更すると表明。アーティストはイギリス生まれであること、イギリス国籍を所有していること、もしくはイギリスを拠点に5年以上活動をしていることのいずれかひとつを満たしていればノミネートの対象とするようになったのだ。

リナはその決断を歓迎し「たくさんのサポートと愛をありがとう、#SawayamaIsBritishがこれだけ多くの人に届くとはまったく思っていませんでした。すべてのUKアーティストにとって良い変化を起こせるプラットフォームになれば幸いです」とツイートしている。

疑問があれば権威を恐れることなく、どんな立場にいても声を上げることの重要さ、そして国籍とは、その国民らしさとは何なのかということについて再考する機会を与えてくれたリナ。

ダイバーシティが社会に広がる中、親から引き継いだ国籍の国と、自らのアイデンティティを育んだ国が同一ではない人たちはますます増えている。そのなかで複数の国籍所有を認めないのは何故なのか。

そしてリナがきっかけで人々がブリティッシュネス(イギリス人らしさ)を再考したように、国籍を持っている人だけが、その「国民」と見なされるのは正しいのか。私たちは彼女のこの行動をきっかけに、いま一度考えてみる必要がある。

坂本みゆき MIYUKI SAKAMOTO

東京生まれ。95年に渡英後、ブライトン大学院にてファッション史を学びながらファッション業界紙やファッション誌への寄稿を始める。現在は男性誌、女性誌、専門誌など多方面に渡ってイギリスに関する記事を執筆。好きな分野は英国文化と生活、アート、音楽、食べ物&飲み物。サセックス州在住。ティーンエイジャーの母。madame FIGARO.jpで「England's Dreaming」を連載中。

texte:MIYUKI SAKAMOTO

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