女性役員の比率を増やす法案は、フランスをどう変える?
Society & Business 2021.07.07
フランスで国民議会議員マリ=ピエール・リクサンが提出した法案が、クオータ(割り当て)制導入という問題提起を超えてビジネスの世界に深いインパクトを与えそうだ。法案の「ドミノ効果」について、リクサン議員と、転職エージェント、マイケル・ペイジのエグゼクティブディレクター、マルレーヌ・リベイロに話を聞いた。
国民議会議員マリ=ピエール・リクサン、マイケル・パージュ社エグゼクティブディレクターのマルレーヌ・リベロは、女性役員のクオータ制はビジネスの世界全体にドミノ効果をもたらすという。photo: Getty Images
門戸を広く開放し、戦略的ポストに女性を大量に起用する。これが、共和国前進(政権党)に所属するエソンヌ県選出の国民議会議員マリ=ピエール・リクサンが提出した法案の主眼のひとつだ。去る5月、法案は国民議会で過半数ぎりぎりで可決され(投票数61票)、現在元老院で審議が行われている。法案には、従業員1000人以上の企業を対象に、従業員の10%程度を占める最高経営者層のポストのうち、2027年には女性の比率を30%、2030年には40%に増やすことを義務付ける規定が盛り込まれている。規定を遵守しない企業には罰金が科されるというものだ。
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クオータ制の導入は社会をどう変える?
最高経営者層とは執行委員会や経営委員会を構成するメンバー、つまり企業を操縦する役員が集まる上層経営陣。いわば原子炉の炉心に当たり、到達するには、一段一段はしごを上っていかなければならない。女性にとってはいまだに遠い世界だ。フランスの大手企業の執行・経営委員会に女性が占める割合は22%にすぎない。この権力の場に女性を起用することに加えて、リクサン議員は今回の法案の審議をきっかけに、企業のあらゆる階層、そして夫婦間においてもドミノ効果が起きることを期待している。転職エージェント、マイケル・パージュでエグゼクティブ・ディレクターを務めるマルレーヌ・リイベロも、そうなる可能性は高いと見ている。
ーークオータ制が優れた解決法であると考えるようになったのはなぜ、そしていつからですか?
マリ=ピエール・リクサン ずっと以前から確信していました。クオータ制度を導入しない限り、企業は必ず言い訳を見つけます。たとえば「女性が見当たらない」などと。それでは3~4年に1ポイント程度のペースでしか事態は進展しない。これは満足できるものではありません。すでに2011年にはコペ=ジンメルマン法案が採択され、ユーロネクストパリ上場企業40社とSBF120を構成する120社の取締役会に女性を40%起用することが義務付けられました。これらの企業では、女性役員のリクルート担当部門が設置されることになり、ヘッドハンティング会社の協力を得て対策が取られています。一部で言われているように、クオータ制に関する議論によって普遍主義や女性の能力に再び疑問が呈されるとは、私は思いません。
マルレーヌ・リベイロ 私の意見は、時とともに変化しました。最初は、クオータ制は大して役に立たない、能力を優先すべきだと確信していたのです。しかしコペ=ジンメルマン法がきっかけで、意見が変わりました。この法律は非常にうまく機能し、企業側の態度に大きな変化をもたらしています。採用側にとっても応募者にとっても、パリテ(均等)というテーマは大きな関心事となっていますが、充分な措置はまだまだ。いまだ掛け声にとどまっている感があります。クオータ制によってあらゆる物事が加速するはずです。
ーー女性幹部の起用という問題を超えて、この法律が間接的にどのようなポジティブな影響を及ぼすと期待されますか?
マリ=ピエール・リクサン 最大の意義は、おなじみの「ガラスの天井」を打ち破ることです。業界によっては、むしろ鉄筋コンクリートの天井といった方がいいくらいですが。まず、経営陣に加わる可能性を持つ人は、どんな企業、どんな業種でもキャリアを築くことができるからです。次に、企業は女性役員を増やさねばならず、それは結果的に、男性が多数を占める業種から女性が流出するのを防ぐことになる。こうした男女平等政策を取ることで、当然、性差別主義に対する闘いを積極的に進めることになり、ひいては女性が活躍しやすい環境の整備を企業側に促すことになります。執行委員会や経営委員会に女性が加わることで、ご存知のように、企業のパフォーマンスが向上し、経営状況が改善するのは言うまでもありません。
マルレーヌ・リベイロ 今回の法案では、女性役員の比率を2027年に30%、2030年に40%にすることと定めています。ただ女性を起用するために、有能な男性を解雇するわけにはいきません。したがって女性の比率を高めるというこの動きは長期的な取り組みとなります。企業にとっては、女性役員候補を発掘するために、上から下まで組織のあらゆる層を精査する必要があります。そうして企業は潜在能力のある女性たちを見出し、いまから育成やサポートをして、2027年や2030年を目標に彼女たちがヒエラルキーの段階を昇っていけるようにしなければなりません。執行委員会に女性が増えることは、取締役会に女性が増えること以上に波及力があると思います。取締役会は企業内部で男女平等を推進させるための今回の措置とは関係がありません。
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企業や社会がなすべきこととは?
女性の社会進出に必要な環境づくり、どのように行われるべき?photo: fizkes_iStock
――企業人生は今後、女性に適応することが求められるのでしょうか?
マルレーヌ・リベイロ そう思います。これはとても大きな問題です。執行委員会に男性文化が深く根づいている企業もあります。会議が始まる時間が遅い、週末にも意見交換が続く、不適切な冗談…。こうした環境で女性たちは話し方や服装も含めて、男性的なコードに合わせなければなりません。執行委員会や経営委員会のメンバーになってから、自分らしくなくなったと感じる女性はたくさんいます。また年齢もブレーキになります。役員候補として見込みのある女性たちは30代で頭角を現しますが、それは、仕事で能力を発揮しはじめる頃であると同時に、第一子を出産する時期でもある。なかにはこのときにキャリアを断念する女性もいます。そうなったとき、雇用者はその従業員を諦めて、外部にほかの候補者を探ことが多い。あるいはその従業員と話し合いをすることもあります。従業員の意見に耳を傾け、彼女たちを支援し、指導するために、企業が今後どのような対策を実施するのか、とても興味深いところです。
マリ=ピエール・リクサン 人生の重要な時期にある女性たちの昇進をサポートするために、今後、企業内で人事政策の見直しが行われていくだろうと私も思います。ただ、労働時間や、仕事とプライベートの両立といった問題は、クオータ制の枠内ではなく、男性の育児休暇や、男性がプライベートや家族により多くの時間を割けるような仕組み作りをすることで解決すべきだと思います。女性ディレクターにも19時に会議を開いたり、ビジネスディナーやネットワーク作りのためにイベントに参加する権利はあります。経営上層部に女性の比率を高めることは、女性がキャリア形成の重要な時期に仕事に精力を注げるよう、その間、男性が家事や育児の負担を引き受けなければならないということです。これはまさに文化的な変革。私たちはいま、書類の束と哺乳瓶を両手に抱えて奮闘した1980年代の女性像から脱却しようとしているのです。キャリアアップにおける男女平等を実現するためには、家事や育児を夫婦で平等に分担することが必要です。
ーーフランスにおける初代「クオータ制女性役員」たちは、場違いなところに来たような違和感を味わうのでしょうか?
マルレーヌ・リベロ 役員ポストを目指す最初のステップで支援があれば、そのようなことはありません。大切なのは執行委員会や経営委員会のメンバーに女性が入ることだけでなく、女性がそこで活躍することです。そのためには、彼女たちが安心して、自分には力がある、胸を張っていいのだと感じられなくては。執行委員会の中に彼女たちを闖入者のように扱うメンバーがいると、簡単ではありません。
マリ=ピエール・リクサン 役員候補になるような女性たちは聡明で、学歴も高く、能力も十分に備えています。これまでもずっとそうでした。クオータ制を導入せざるを得ないのは、そうした女性たちに活躍の場を与えていない企業があるからです。女性たちに言わなければならないのは、あなたの正当性を疑問視する人がいたら、それは、あなたが働いている環境や業界や会社に問題があるのであって、あなたに問題があるのではない、ということです。執行委員会や経営委員会にまだ女性を起用していない企業には、レッドカーペットを敷いて女性たちを迎えてもらいたいと思います!
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実現に向けた具体的なステップ。
クオータ制が実現すると、社会はどのように変化を遂げる?photo: Popartic_iStock
ーークオータ制の義務化は従業員が1000人以上の企業のみが対象となります。フランスでは零細企業と中小企業が大半を占めています。この線引きは足枷になりますか?
マリ=ピエール・リクサン それも現在審議が行われていえる元老院で議論されるポイントのひとつです。ただ線引きについては合理的に考える必要があると思っています。まずは「従業員1000人以上の規模の企業でこの措置が実施されるように努めましょう」。その後で「次に何をすべきかを考えましょう」という手順です。いずれにせよ、国民全体を巻き込む流れとなるはずです。従業員1000人以上の企業で多くの女性が昇進を目指せるようになれば、規模の小さい企業も、才能のある女性を集めるには、この動きに追随するメリットがあると理解するでしょう。
マルレーヌ・リベロ そうですね。法案云々を超えて、企業は候補者や市場の評価を無視できなくなるでしょう。幹部を目指す女性たちにとって、法的な線引きはすぐに印象が薄くなると思います。リクルーターに「パリテやクオータ制が言われる時代に、なぜ貴社の執行委員会は100%男性なのですか?」と尋ねる女性も出てくるでしょう。評価は今後とても厳しくなると思います。雇用者の評判やイメージが一層重視されるようになるでしょう。
ーー次のステップとして、どのようなことが考えられますか?
マリ=ピエール・リクサン キャリアを優先するために、特に男性が育児休暇を取らないのはおかしいという風潮になれば、大きな進歩と言えます。3ヶ月の父親休暇を取ることがハンデにならなくなったら、あるいは男性が、たとえ管理職でも、自然に「息子を医者に連れて行くので、今日はこれで退社します」と言えるようになったら、何かを勝ち取ったと言えるでしょう。いま私たちはバランスをひっくり返そうとしているのです。男性たちが(男性たちもそれを望んでいます)プライベートや家族により多くの時間を割けるように、そして女性たちがキャリアにより力を注げるように。それが実現されれば、男女双方にとってプラスになるでしょう。
マルレーヌ・リベロ すべてがうまく機能するため、鍵となるのは子どもたちの進路指導です。執行委員会のテーブルを叩いて「女性を採用しよう」と掛け声を上げても、科学技術分野を始めとするいくつかの業種では、相変わらず女性が少なく、それも経営中枢から遠く離れた、人事部やマーケティング部門にちらほらという現実は何も変わりません。理工学系を目指す女子生徒が大幅に増えなければ、企業は弱体化するでしょう。的確な進路指導を行いさえすれば、女子生徒もこうした分野で才能を開花させるはずです。
マリ=ピエール・リクサン 実際には、女子も男子も、生徒ひとりひとりに「自分が選んだ進路で自分の能力を発揮するのはごく当然のことなのだ」と理解させることが大切です。遊びや芸術活動や文化活動、高校のオプション授業、どんな場合でも、自分自身が選んだ、ということがシンプルに正しい理由なのだ、と教えていれば、思春期や大人になっても、選択が正しいかどうかで悩むことはないはずです。
texte : Sofiane Zaizoune (madame.lefigaro.fr)