一人っ子政策の後遺症? 子どもを欲しがらない中国の若者。

Society & Business 2021.07.14

予想していた以上に深刻な高齢化、出生率の激減…。こうした状態から抜け出すため、中国当局はこれまでの一人っ子政策を見直し、今後は一組の夫婦が子ども3人まで持つことを許可した。ただ、どうもこの決定は、いずれ親となる世代を、その気にさせるまでにはいたっていない。

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出生率の急激な減少に直面し、中国政府は、今後は夫婦が子ども3人まで持つことを許可している。ただ、どうもこの決定は、いずれ親となる世代をその気にさせるにはいたっていない。photo:Getty Images

子どもの数はだんだん減り、高齢者はますます増える。中国はいまも表向き、14億の人口を有す世界最大の国だ。だが、5月はじめに出されたこの10年間の国勢調査によると、高齢化は加速し、子どもの出生率にいたっては、2019年の新生児数は1460万人だったのに対し、2020年には1200万に落ち込んだ。

こうした傾向を覆すため、政府は産児制限を見直し、夫婦に子ども3人まで認める政策を打ち出した。2015年、中国政府は既に、人口増の夢をたくして見直し計画に着手。一人っ子政策に終止符をうち、ふたり目の子どもを産める道を開いてきた。ただ、期待されたベビーブームは、中国国民の間で反発を生み、そこまでに至らなかったようだ。

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強引な政策の後遺症

この政策転換は、新旧それぞれの世代を困惑させていると言わざるを得ない。

多くの人々は、意識しているか否かにかかわらず、極端な産児制限の後遺症をいまも持ち続けている。それは、1979年以降、人口の増加を抑えるため、中国共産党が進めてきた政策だ。「中国共産党は外国からの農産物を輸入しない主義でしたから、出生数の急激な増加は、当時、国の食糧資源をおびやかす脅威でした」。パリの国立高等工業学院「エコール・セントラル」の教員で、中国研究者でもあるアラン・ワンは、こう説明する。

まさに家族計画こそがすべてをコントロールしていた。各地の親たちはそれぞれ家族計画の許可証が交付され、一人っ子政策に従うよう、当局は監視の目を光らせた。農村でよく起きたことだが、この規則に違反した場合、当初の弾圧は凄まじかった。「家族計画委員会が突然村にやってきて、出産適齢期を迎えたすべての女性を一列に並ばせ、子どもを産むことを許されていない女性はただちに中絶させられたり、不妊手術を強制させられたりしました」とワンは報告する。

抑止のための罰金も同様に課せられた。3人の子を持った映画監督のチャン・イーモウは2013年、50万~100万ユーロの罰金を課せられた。裕福な家族と貧しい家族の間の社会的格差は、ますます広がった。

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妊娠出産は社会的なキャリアの障害

中国政府はこの政策のおかげで、4億人の人口増を抑えるのに成功し中国の経済成長を再び軌道に乗せられたと自負しているが、その代償は単に人口動態だけでなく、男女比の面にも及んでいる。

「何十年も前から、世界で最も人口の多いこの中国では、男性の数の多さは平均より目立って高いものでした。地域によっては女100に対し、男は120を上回っていた」

テレビ5国際放送の記者はそう強調する。

「儒教の伝統で、中国では男性は苗字を有し、家族の系譜も持っています。でも女性は、男の系譜に関連づけられたただの一データに過ぎません」と、中国学者のアラン・ワン。

こうしたメンタリティは重大な結果を引き起こした、と指摘するのはテレビ5国際放送だ。「つまり、何百万人もの女性が胎児や出産直後の嬰児の段階で殺され、姿を消したのです」

生きのびた女性たちは、男性優位の家長的社会の重圧のもと、妊娠出産から遠ざかった。なぜなら、妊娠出産は社会的キャリアを積むのには障害となるからだ。

「中国では女性の62%近くが働いているのに、そのうち子どもを保育園に預けている女性はわずか5%にすぎません。ヨーロッパでは35%もの女性が子どもを預けて働いているというのに、ですよ」と、ワンは明言する。

「個人的には子どもは要らないわ。たとえひとりでもね」 

AFPの取材に対し、地方都市に住む27歳の女性はきっぱりと言い切る。「私の友達の間でも、子どもが欲しいなんて人は実際、ひとりもいないわよ」

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親とは「カネのかかるもの」。露骨な経済負担も

トラウマをもたらす負の遺産にくわえ、出産適齢期の中国人の経済状況からは、親としての経済的負担がさらに加わるには厳しい状態だ。

「中国の親は、子どもが18歳になるまでに平均100万元、ユーロに換算すると124,000ユーロ(編集部注・約1600万円)を費やします。時にはもっと多いかも。なぜなら彼らは、頑なに能力主義を信じており、学校以外の多くの塾で、子どもに投資するからです」

アラン・ワンはこう指摘する。住宅費の高騰が、すでに十分厳しい家計の支出に追い討ちをかける。

「中国は、サラリーに対するマンション購入費の割合が世界でも最も高い国のひとつです」とワンは続ける。「脆弱な収入をたとえ自由に使えるとしても、彼らは親としてより自身の健康への支出を優先させるでしょう。なぜって、病気や退職に対する社会保障は、中国は最悪ですから」

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自由への望み

さらに、親にならない場合でも、中国の若者たちは両親、そして義理の両親という、ひとりもしくは大勢の家族を扶養する不都合さを、身を持って知っている。

「中国では、4対2対1、という家族構成はもはや逆転しています。かつて、これは4人の子、ふたりの両親、ひとりの祖父母、の意味でしたが、いまでは4人の祖父母、ふたりの両親、ひとりの子。一人っ子の肩に、一族全員の期待がかかっているのです」とアラン・ワン。「何をするにしても、財源面あるいは心理面でのプレッシャーが、”一人っ子”たちの肩に重くのしかかっているのです」

中国のTwitterことWeiboでは、皮肉を込めて、一人っ子を「国家のヒーロー」と呼ぶ。「多くは負担に耐えかねて投げ出しています。子どもが家族をほったらかしにする「空の巣」現象が起きているのです」

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一人っ子は小さな皇帝

「一人っ子は小さな皇帝として育てられた。より享楽主義者で自分中心の人格の持ち主となるように」
―アラン・ワン

たとえ中国政府が、新しい産児政策とあわせて家族支援策――産休や子どもの世話、教育費の低下など――について、おおまかにでも全国の家族に約束したとしても、人口構成の立て直しができるかどうかは疑わしいし、あり得ない、とこのワンはみる。「我々は、中国の家族という構成組織が壊れた現場に立ち会っているのです」と彼は言う。

「一人っ子は小さな皇帝や皇后として育てられました。それまでの世代の人たちより、快楽主義者でエゴイスト。そんな人格となるべく育てられてきたのです。豊かな購買力の恩恵を受ける人は、それを自分のために使おうとするものですし、旅行や娯楽などを介して、西欧化された生活をより一層望むものです」。

この現象をやわらげ、高齢化した人々の世話をするためには、中国は、産児制限の解除とあわせて新しいテクノロジー、とりわけロボット技術の開発に頼るしかあるまい。なぜなら、そう、近い将来、ロボットは、家族の一員であることを装うことができるからだ。たぶん、あのクリスマスの際限なくつづく夕餉にも、機械であれば耐えられるに違いない。

text:Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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