週休3日制は本当に可能なの? フランスの場合。

Society & Business 2021.07.21

アイスランドでは、週休3日制の大規模な実験が行われ、好結果が出ている。フランスではすでに数年前から導入している企業もある。業務を効率化できるかどうかが決め手で、その結果、パフォーマンスは向上し、従業員の幸福度も上がるという。

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4日働いて5日分の給与を受け取る:試してみた企業や従業員が納得した。photo: Carlina Teteris /Getty Images

より少なく働き、多く稼ぎ、生産性を上げる。夢のような話だが、そんなことが果たして可能なのだろうか。アイスランドはその課題に挑戦している。

2015〜19年にかけて、2,500人のアイスランド人が、賃金カットなしに、週の労働時間を40時間からおおよそ35時間に減らし、週4日勤務とした。結果は「大成功」。イギリスとアイスランドの2つのシンクタンクによれば、従業員のストレスが軽減され、ワークライフバランスは改善。さらに生産性は変わらないどころか向上しているという。

この好結果を受け、昨年3月にはスペインで同様の実験が始まるなど諸外国でも検討が進んでいる。

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フランスでも導入する企業が出てきている。例えば、求人ポータルサイトのウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル。同社の創設者、ジェレミー・クレダは、「ワークライフバランスは大事です。ただ、労働時間の削減や有給休暇の取得だけでは十分な解決策にならないと感じていました」と話す。ジェレミーは、勤務時間に問題があると考えた。

2019年6月、同社は100名の従業員を対象に、6カ月間、労働時間を試験的に短縮した。「週5日を4日に減らすのではなく、もともと週4日と考えます。これが通常の勤務時間であるとして考えれば、当然、賃金は減らしません」とジェレミーは説明する。この決断に至るまで、同社の経営陣は、コンサルタント会社、神経科学者、データサイエンティスト、働き方の専門家などを集め、週休3日制の影響を正確に測定するよう依頼した。

そして専門家の意見としては......導入当初は悪影響が出るだろうということだった。「試験導入から1カ月後、パフォーマンスが全体で20%下がりました。しかし状況改善に努めた結果、半年後には週休2日だった頃よりも良いパフォーマンスとなったのです」。賭けは成功、従業員代表との労使協定でこの働き方は正式に導入された。ジェレミーによると、業務の効率化がキモだそうだ。

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プロジェクトの優先順位を決め、時間を効率的に使う

「うまくいくために必要なポイントは2つです。不要な会議などをなくすことで時間を有効に使うこと、そしてプロジェクトに優先順位をつけることで会社にとって本当に有益な選択をすることです」とジェレミーは言う。

トゥーロンとパリに拠点があるベビーキャリー販売会社、ラブ・ラディウスも毎年5〜9月にかけ同じ戦略をとっている。「求人広告を出す、ウェブサイトに翻訳機能を追加する、商品紹介を更新するなどの緊急性の低い業務は、すべて9月以降に後回しにしています」と、同社の共同設立者であるオリヴィエ・サルは説明する。

その結果、優先度の高い業務に集中することになる。週4日で5日だった時と同じ仕事量をこなすには、自分を規律することが必要になってくる。「時間の使い方に無駄が無くなります。頻繁なタバコ休憩や同僚とのおしゃべりの暇はありません。全員が業務に集中し、できるだけ効率的に仕事を進めます」

もっとも、オーバーワークの恐れはないとオリヴィエは言う。仕事量を増やすのではなく、より賢く働くことが推奨されるからだ。「肝心なのは、無駄で不要な業務の洗い出しを各自が心がけることです。仕事の密度を高めても、仕事のプレッシャーが大きくなるとは限りません。疲れをためずにより良い仕事をすることは可能です」とオリヴィエ。

週休3日制になると、朝か夜に残業しないと仕事をこなせないのではないか?「営業チームのように常に社外とのやりとりがある仕事は、勤務時間が20%減るとそれなりの影響があります」とウェルカム・トゥ・ザ・ジャングルのジェレミーは認める。「残業をする人はいませんが、休憩時間を減らした人はいます。それは問題ないと考えています」

大切なのは、業務の効率を高め、自律的に時間管理ができるよう、チームをトレーニングしていくことだ。

女性の解放のためのツール?

 

20年前、フランスでは週35時間労働制に移行し、社員の自由な時間は増えたが、増えた自由時間を男女が同じように享受しているわけではない。それが、2020年1月に国立人口学研究所(INED)発表した研究の結論だ。「平日、男性は、DIYやガーデニング、事務手続き、“レクリエーションとしての”育児などに多くの時間を費やし、週末に自分の時間を確保している」と報告書にはある。一方、女性は、平日も週末も関係なく、子どもの世話、料理、掃除などの日々繰り返される家事のほとんどを担っている。

 

それでも、男性が家事に費やす時間は、39時間働いていたときよりも1日平均で12分多くなっている。INEDの研究者によると、これは有意な増加だという。労働時間がさらに短縮されれば、さらに増加するかもしれない...。

 

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より自律的に、より幸福に

精神衛生上もいい影響があるようで、「週休3日制の影響測定を依頼した神経科学者の指摘の中で興味深かったのは、週休3日制によって誰もがスケジュール管理をするようになり、それが自己評価にダイレクトに影響があるというものです」とジェレミーは言う。

休みが3日間あると物事の優先順位をつけ、意識的に選択し、時間を最大限に活用するようになる。一方で、オーバーワークを避けるための役目を経営層は担っている。「期限のない漠然とした目標を設定する代わりに、従業員と一緒にその目標を複数の小さな中間タスクに分割することで、進捗状況を1週間のなかで追うことができます」とオリヴィエ。

現実的な短期ビジョンを設定することは、どれも重要なタスクの山に埋もれることを防いでくれる。

「職種によっては、週休3日制がつらい労働を耐えやすくする効果もあります」とイプレマの事務局長、シュザナ・マンデスは、と強調する。建築資材のリサイクルを行う同社には現在100名の従業員がいるが、すでに1997年からほぼすべての職種で週休3日制を導入済みだ。

まず、肉体的に一番過酷な作業を行う製造チームから導入をスタートした。「1日の労働時間が8時間から8.45時間になる一方で休憩時間は確保しました。従業員は勤務時間に匹敵する休日があり、出勤が週当たり、1日減りました」とシュザナスは説明する。ゆとりができれば家事をするだけではなく......充実した週末を過ごせる。

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相互の信頼関係

ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングルでは、従業員100人中76人の週末は、木曜日の夕方から始まる。そして社員は水曜日に休みを取りたがる。「休みの日は多くの社員がオフラインになる一方、社員の3分の1は休みでも仕事のメールに返信しています。1~2時間のことだったりしますが。当社はその点を柔軟に考えています。休日に1分たりとも働きたくない人にはそれを認めなくてはなりません。しかし、仕事を進めておきたかったり、片づけたいことがあったりするなら、それはその人の自由です」とジェレミー。

完全なテレワークも認めているジェレミーによれば、週休3日制は従業員の自由な時間へのニーズを満たすだけでなく、労使関係に相互の信頼関係を取り戻すものでもある。雇用主は従業員の仕事量を調整し、合理的な目標を設定することを約束し、従業員はその目標を達成するために必要なことを行うと約束するのだ。

ラブ・ラディウスのオリヴィエは、「週休3日制に移行できたのは、社員が質の高いサービスを提供するために尽力したからです」と言う。

また、同社のアフターサービスチームは、金曜日の朝に仕事をしてメールにアクセスしても、仕事を強要されたとは思わない。同社の従業員は金曜日の出勤を免除するという協定に合意した。つまり、正確には金曜日は休日ではなく、業務上の事故が起こった場合は労災として扱われる。誰かが常に対応できるような柔軟なシステムは、雇用主の従業員への全幅の信頼に基づいている。

「うちは従業員が20人で、お互いよく知っているからうまくいっているのかもしれません。もっと人数が多い企業の場合はどうでしょうね」とオリヴィエは語った。

text : Sofiane Zaizoune (madame.lefigaro.fr), traduction : Hanae Yamaguchi

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