核廃絶・平和を訴える「ヒロシマ・アピールズ」のポスター。

Society & Business 2021.08.12

From Pen Online


文/岩崎香央理

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広島・長崎の原爆投下から76年。惨禍の記憶を共有し、平和を希求するメッセージを、ポスターを通して国内外に伝えるアクション「ヒロシマ・アピールズ」が、今年も公開された。
1983年、亀倉雄策の「燃え落ちる蝶」を第1回作品としてスタートした「ヒロシマ・アピールズ」。毎年、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)会員から1名が制作者として指名されるが、歴代には粟津潔、福田繁雄、田中一光といったレジェンドから、石岡瑛子、葛西薫、井上嗣也に原研哉など、錚々たるメンバーが名を連ねる。

今年、制作者として選ばれたのは大貫卓也。としまえん「プール冷えてます」や日清カップヌードル「hungry?」、資生堂「TSUBAKI」など、数多くのヒット広告を世に送り出したアート・ディレクターである。「原子爆弾の脅威を今の若者へ歴史としてではなく、ライブ感をもって伝えること」を意識したという大貫。ポスターのモチーフは、ガラスのドームに閉じ込められた平和の象徴、白い鳩。しかし、観光地みやげによくあるスノードームと違い、舞い上がり降り注ぐのは、きらきらした白い雪ではなく、不吉な黒い粉だ。焼夷弾の煤(すす)と煙、爆撃による瓦礫、そして、8月の黒い雨……。

ポスターには仕掛けがあり、スマートフォンで専用アプリ「aug!」をダウンロードしてかざすと、画面上でグラフィックが動き出す。黒い粉がドームにみるみる充満し、鳩を覆い尽くしていくというAR(拡張現実)ポスターなのだ。「原子爆弾にリアリティーをもたなくなってしまった世代の若者へ、一瞬でも、考え、想像させる時間を持ってもらうための表現」だと、大貫は語っている。

76年が経ったいまもなお、閉じ込められた平和の鳩は苦しみに耐え、飛び立てないでいる。スマホ越しの拡張現実が、ヒロシマの静かな叫びを伝えてくれる。

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ポスターのモチーフであるスノードームは、終戦記念日までに発売を予定している。

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日本を代表するアート・ディレクター、大貫卓也は1958年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂入社。93年に独立。広告の本質を掴み取りながらも、既存の概念を鮮やかに覆すキャンペーンを数多く成功させ、後進のクリエイターたちに大きな影響を与える。

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【動画】アプリでかざすとグラフィックが動き出す

「aug!」アプリでかざすとグラフィックが動き出したときの様子がわかる動画。

text: Kaori Iwasaki

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