「性犯罪から身を守る方法」何歳からどう教える?

Society & Business 2021.09.15

From Newsweek Japan

家庭で性の知識を身につけることが必要だと、性教育サイト「命育」代表の宮原由紀氏。子どもたちはネットを性の教科書にしてしまっているし、性教育は防犯にもつながるからだ。年齢ごとに必要な知識と伝え方とは?

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photo: tzahiV-iStock.

「性教育を学校に丸投げしてはいけない」と、性教育サイト「命育」を主宰する宮原由紀氏は言う。

「学習指導要領」(平成29・30年改訂)によると、学校で教える性教育は、小学校4年生で思春期の身体の変化を学び、5年生では男女に分かれて、身体の悩みや生理用品など、より丁寧な指導を行うというもの。

学校は性教育にそれほど時間を割いていないのが現状だ。

宮原氏によると、子どもたちがより詳しい性の知識を得る場所は、インターネットのアダルトコンテンツだという。

高校生のセックスの情報源は、「友人・先輩」「インターネット」が多い。その友人や先輩もインターネットを参考にしていると考えると、それが子どもたちの性知識の教科書だと言っても過言ではない。

そんな学校教育の現場でも、最近は子どもを狙う性犯罪やSNSに起因する性犯罪に対する防犯意識が高まっている。性教育が変わりつつあるのだ。

しかし宮原氏は、セックスや避妊などの知識を学校で教えられるようになるには、まだまだ時間がかかるだろうと考えている。

一方で、セックスや妊娠、避妊を教えることだけが性教育ではないとも宮原氏は言う。身を守るために、「他人が許可なく自分の体に触るのはいけない」と教えることも性教育であり、触られたときに「おかしい」と子どもが気づけることも大切な知識である。

それらは防犯意識に留まらず、自分や他人を大切にすることにもつながる。できるだけ小さい頃から、家庭で、性の知識を身につけることが必要なのだ。

そうは言っても、親子間で性の話は気まずいというのが正直なところだろう。

2018年、宮原氏は、そんな親たちの「困った」をヒントに「命育」を立ち上げた。医師や専門家の協力のもと、性教育に関する保護者の質問に答えるだけでなく、性に関する悩みを抱える子どもにも寄り添ってくれるウェブサイトだ。

このたび、産婦人科医・高橋幸子氏の監修のもと『子どもと性の話、はじめませんか?――からだ・性・防犯・ネットリテラシーの「伝え方」』(CCCメディアハウス)を出版した宮原氏。本書では、幼児期から思春期まで、その年齢ごとに必要な性の知識や伝え方を知ることができる。

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「あやしい人に気をつけて」では子どもは分からない。

本書で児童期(小学校低学年~中学年ごろ)の子どもに教えておきたい知識のひとつとして挙げられているのが、性犯罪から身を守る方法だ。この時期は、放課後に友達の家や公園に行くなど、ひとり行動が増える。

「命育」に参画している精神保健福祉士の斉藤章佳氏によると、ペドフィリア(小児性愛障害)の多くはごく平凡な人だという。

お世話になっている人など、顔見知りの可能性も高い。さらに性被害は、女の子に限らない。男の子も注意が必要だ。

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『子どもと性の話、はじめませんか?』111ページより

しかし、「あやしい人に気をつけて」と言われても、子どもはどう気をつければいいのか分からない。具体的に教えることが大切だという。

たとえば、プライベートゾーン(性的に関係のある自分だけの身体の大切な場所。具体的には胸やお尻、性器、唇)を誰かに「見せて」「触らせて」と言われたり、誰かが見せよう、触らせようとしてきたりしたら、「いやだ! やめて」と言って逃げるように伝える。

ひとりでいるときに「あっちで一緒に遊ぼう」「車に乗らない?」と誘われたら、「お父さんとお母さんがダメだと言ってるから」と答える。このときに、主語をお父さん、お母さんにすることで、子どもが迷いや罪悪感を抱かずに断れるという。

誘い文句は相手によって異なる。宮原氏は、いろいろなシーンを想定して、子どもとシミュレーションをしておくことを勧める。

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リベンジポルノ被害の多くは「自撮り写真」。

思春期(小学校高学年~高校生ごろ)に気をつけたいのが、スマホをきっかけとしたトラブルだ。2020年にSNSで性犯罪の被害者となった18歳未満の子どもは1819人。スマホのフィルタリング機能だけでは防ぎきれない。

宮原氏は、家庭でネットリテラシーについて話しながら、スマホルールを考えることの大切さを訴える。

子どもの中には、「みんなもやっているから」とSNSで自分の性的な画像や動画をシェアしてしまうケースもある。元交際相手によってその画像をインターネットにアップされてしまうリベンジポルノ被害の大半は、自撮りした写真なのだ。

さらに、18歳未満の性的な画像や動画は「児童ポルノ」にあたる。性的な写真を子どもに送らせたり、インターネットに掲載したり、他の人に転送したりすると法律違反になる。送った側が処罰の対象になることもあるので、注意が必要だ。

ただし、心配がゆえに子どものスマホを勝手に見ることに、宮原氏は注意を促す。もし子どもがトラブルを抱えていることをそれで知っても、子どもに言いづらくなってしまうからだ。

さらに、子どもの信頼を失ってしまうことにもなりかねない。子どもが困ったときに相談してもらえるような関係性をつくることが、何より大切だ。

実際に「命育」には、「息子が女の子に裸の写真を送ってほしいとLINEをしていた」「女の子同士で下着の写真を送り合っていた」などの悩みが寄せられているという。

まずは、子どもがどの程度ネットリテラシーを身につけているかをチェックしてみよう。そして、軽い気持ちで送った写真がネットで拡散される可能性があるなど、写真を共有する危険性を伝えるのだ。

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『子どもと性の話、はじめませんか?』175ページより

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今からでも間に合う「キャッチアップ性教育」。

小さい頃からの性教育が大切だと言われても、すでに思春期になっていて、いまさら子どもと性の話などできないという人は多いかもしれない。

宮原氏がそんな保護者に提案するのが「キャッチアップ性教育」だ。本やサイト、動画などのツールを活用して、子どもに正しい知識を伝える方法である。

海外の調査によると、正しい知識を得ることにより、子どもが性行動に慎重になり、経験する年齢を遅くすることにも繋がるという。

保護者が子どもに性の話を直接するのではなく、思春期向けに書かれた性の本を渡したり、サイトや動画などを教えたりして、それらに代弁してもらう。渡しにくい場合は、本をそっと子どもの部屋の本棚やトイレに並べておくのも手だ。

子どもが性について知りたいと思った時に、アダルトサイトではなく、信頼できる知識に触れられる環境を整えておくのだ。子どもには「分からないことがあれば、いつでも聞いてね」と伝えておこう。

また、本やサイトなどのツールをきっかけに、性の会話をしてみる。小さな対話を重ねながら、子どもと性の話ができる関係性を築いていく。その積み重ねにより、性の話も日常会話のひとつにできるようになる。

大切なのは、子どもに何か困ったことがあった時、保護者に相談できるような関係をつくることだ。性の会話を始めるのに遅すぎることはないと宮原氏は断言する。

考えてみれば、学校での性教育では、踏み込んだ内容に触れることはない。一方で、親子の間で性の話はなんとなくタブーだと思っている人が多いだろう。

しかし、子どもたちが偏った内容のアダルトサイトや先入観が入った友人や先輩の話を鵜呑みにしてるとしたら、とても危険だ。

性教育はセックス、妊娠、避妊だけを教えるものではない。子どもたちが性犯罪に巻き込まれないためにも、自分や相手を守るためにも大切な知識なのだ。

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子どもと性の話、はじめませんか?――からだ・性・防犯・ネットリテラシーの「伝え方」』
宮原由紀著
高橋幸子監修
CCCメディアハウス刊 ¥1545
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

 

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text: Newsweekjapan

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