子どものヘアスタイルと多様性、アメリカでは訴訟問題。

アメリカで学校職員が児童の髪の毛を勝手にカットし、提訴問題に発展している。

ミシガン州の公立ガニアード小学校の生徒が両親の許可なしに同校の職員により勝手に髪の毛をカットされたことは憲法上の権利侵害にあたるとし、父親が学区と司書らを相手取り、100万ドル(約1億円)の損害賠償を求め、連邦裁判所に提訴した。

ジミー・ホフマイヤー氏は今年3月、娘のジャーニーちゃん(7歳)が頭髪の片方だけカットされて帰宅したことに気づいた。ジャーニーちゃんに話を聞くと、別の児童がジャーニーちゃんの髪の毛をハサミで勝手に切ったという。

事件後、父親は校長に抗議し、ジャーニーちゃんをヘアサロンに連れて行き、髪型の左右のバランスを整えてもらった。それにも拘らず騒動の2日後、再びジャーニーちゃんは学校で片方の髪だけカットされた。

2回目のカットは、「左右を均等にするため」美容師でもある校内の図書室の司書が行ったものだった。(注:契約内容によるが、アメリカでは公務員でも副業が認められている)

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父親は、娘の髪の毛が他人に勝手に手を加えられたことに対して、「(人種がそれぞれ異なる)バイレイシャルの人権が侵害された」などとし、精神的苦痛を訴えている。ジミー氏は白人と黒人のミックスレースで、ジャーニーちゃんの母親は白人だ。

教育委員会は問題発覚後に独立した第三者機関による調査を行い、児童の髪を切ったのはあくまでも職員の「善意」によるものだったとし、人種的偏見や差別は見られなかったものの、両親の許可なしのそのような行為は違憲だと認め厳重注意をしたと、7月に発表していた。

一方父親によると、この件について事情徴収を受けたことは一度もないと、教育委員会とは真っ向から対立している。なお現在、ジャーニーちゃんを別の学校に通わせている。

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photo:iStock

今後の法廷の行方が注目されているが、100万ドルという多額の損害賠償額からも、アメリカでは児童の頭髪に教師が物申したり、勝手に触ることはタブーとされていることがわかるだろう。多民族国家ゆえ人の見た目、特に髪に関することは、人種および民族差別や偏見と表裏一体であり大問題に発展しがちだ。それだけ、髪質、色、髪型を含む生まれながらの容姿や身体的特徴を他人があれこれとやかく物申すことは御法度だ。

たびたびニュースにもなる問題で、近年では2018年、ニュージャージー州の白人が多く通う高校のレスリング試合において、ドレッドヘアの黒人選手に髪を切るか試合を棄権するか選択を迫った審判が、一時試合に出場できなかった一件がある。またニューヨーク市は19年より、職場において従業員の髪型について言及することを法律で禁じた全米初の都市になった。

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ちなみに、アメリカの公立校で生徒のヘアダイやパーマは何年生から許されるかといえば、そのような規則自体が基本的にないようだ。たとえば服装について「露出が多いもの、政治的なメッセージが強いもの、道徳を乱すもの」以外は基本的に自由とされている。

アメリカの子どもたちを見ていて思うのは、学校の規則というのは作るから破る生徒が出てくるのであって「各人の良識や裁量に任せる」「基本的に好きな格好でよし」と提示されると、心境的に突拍子もない方向へ走る人がそれほど多くならないのではないかということだ(もちろん例外はある)。金髪、赤毛、黒髪、カーリーヘア、ドレッドロックスなどさまざまなヘアスタイルの人が存在する環境に身を置かれれば、個のアイデンティティについて尊む気持ちが芽生え、自分らしい姿でいることに誇りが出てくると思う。
ちなみに、令和の時代においても日本の一部の学校では、生まれながらの自然な茶髪の生徒が黒髪に染めるように言われた(本人の意向を無視し、教師に勝手に染められた)、天然パーマを縮毛矯正するよう指導された、三つ編み禁止を通達されたなどの意味不明な校則がいまだに存在し、ヘアに関するトラブルは枚挙にいとまがない。

これらは多様性を認める、個を尊重するという社会と相反する、行き過ぎた集団生活上でのルールや風潮の問題であり、日本のみならずアメリカにも少なからず残っている。

text: Kasumi Abe

在ニューヨークジャーナリスト、編集者。日本の出版社で音楽誌面編集者、ガイドブック編集長を経て、2002年に活動拠点をニューヨークへ。07年より出版社に勤務し、14年に独立。雑誌やニュースサイトで、ライフスタイルや働き方、グルメ、文化、テック&スタートアップ、社会問題などの最新情報を発信。著書に『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK』(イカロス出版)がある。

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