130年の歴史あるサヴォイの名バー、時代を作る女性たち。
Society & Business 2021.09.23
ロンドンのラグジュアリーホテル、サヴォイ内のアメリカン・バーは、1893年にオープンした市内に現存する最も古いカクテルバーだ。その栄えある歴史のみならず、飲食業界人たちが毎年その結果に注目する「ワールド・ベスト・バー」のランキング上位に常に位置する世界に名だたる店でもある。
ホテルの創業は1889年。19世紀から現在まで、数々のセレブリティを顧客として迎えてきた正面玄関はいまも変わらずゴージャスで優雅。
そんなアメリカン・バーにこの度、女性ヘッドバーテンダーが誕生した。シャノン・テベイは、ニューヨークの有名店デス&カンパニーで辣腕をふるっていたミクソロジストだ。ニューメキシコ出身の彼女はビジュアルアートを学ぶためにニューヨークに移住。しかしそこで食とドリンクの魅力に出合い、アートではなくバーテンダーの道へ歩むことに。そんなユニークなキャリアがベースとなって作り出される彼女のカクテルはクリエイティブで、予想を超えた味のハーモニーがあると評判だ。
今回の抜擢を受けてニューヨークからロンドンへ移り住んだシャノン。バー業界には様々な国籍の人が働いているが、彼女はアメリカン・バーでの初のアメリカ人ヘッドバーテンダーだ。
「アメリカン・バーのヘッドバーテンダーになるということは、一生に一度の名誉であるばかりでなく、この素晴らしいバーの伝説を、カクテル作りと最高のサービスを通し、革新とハイクオリティを持って引き継いでいくことなのだと考えています。アメリカン・バーの歴史に敬意を示しながら、サステナビリティに心を配りつつ新たな道を模索していきたいと考えています」とシャノン。
130年を超えるアメリカン・バーの歴史で、これまで存在したヘッドバーテンダーはたった13人しかいない。その13代目がシャノンとなるわけだが、実は女性ヘッドバーテンダーは彼女以外にもうひとりいた。1903年にそのポジションに就いたエイダ・コールマン、通称コリーだ。コリーは彼女の右腕ともいえるローラ・バージェスとともに1926年にリタイアするまで20年以上に渡ってアメリカンバーのカウンターを守り続けた。
エイダ・コールマンへの敬意を示すために、シャノンは新メニューにエイダへのトリビュートカクテルを並べることを考えているとか。
コリーと彼女の右腕バージェス女史の姿をコミカルに伝える、古い雑誌の切り抜き記事。ふたりがいかにユニークな存在だったかがうかがえる。
時のセレブリティたちを顧客に持ち、さまざまな名カクテルを披露。常連だったコメディ俳優チャールズ・ハウトレイのために作ったとされている「ハンキー・パンキー」と名付けられた一杯は特に有名で、クラシックカクテルとしていまも「アメリカン・バー」のメニューに並ぶ。
前記の「ワールド・ベスト・バー」のベスト10内には毎年のように何軒ものロンドンの店が名を連ねる。躊躇なくチャレンジし、画期的なスタイルで素晴らしいカクテルを作り上げることで知られる名店が多いのだ。
近年は女性バーテンダーも増えてきている。別の老舗ホテルの名バーとして有名なコノート・ホテルのコノート・バーにもバー・マネージャーでミクソロジストのマウラ・ミラがいる。それでも古くからある店でバーテンダーのトップに就任する女性は残念ながらまだまだ稀。それだけにアメリカン・バーを任されたシャノンのニュースは注目度が高く、一般紙が報道するほどだ。
現在は店内改装のために一時休業中だが、9月末には再オープンの予定だ。コリー同様に、シャノンが数々の逸話とともにアメリカン・バーの新たな歴史を作りあげていくのを楽しみに待ちたい。
text: Miyuki Sakamoto