ドイツ・メルケル首相が引退間近にフェミニスト宣言。

Society & Business 2021.09.28

ドイツ初の女性首相となったアンゲラ・メルケルは、女性の昇進を阻む「ガラスの天井」をものともせず、世界の有力者の一人となったが、これまで女性の権利向上にあまり積極的ではなかった。

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エリゼ宮で演説するアンゲラ・メルケル首相。(パリ、2021年9月16日) photo : Abaca

一国の指導者となって16年。引退間際になり、ようやくメルケル首相(67歳)は自分が「フェミニストである」と発言した。9月初め、ナイジェリアの作家チママンダ・ンゴスィ・アディーチエとの対談でのことだった。これまでこの手の問題に関して「腰が引けていた」が、考えが変わったと言う。「原理から言えば、(フェミニズムとは)人生や社会生活参加における男女平等を主張することです」とも。

しかし、いまさらながらの発言を好意的に取る人ばかりではない。女性に「平手打ち」を食らわせるような発言だと感じる人もいる。フェミニズムジェンダー研究を専門とするグンダ・ヴェルナー財団所長のイネス・カパートは、「フェミニストの意見に耳を傾けてドイツで女性の地位向上をするのに16年間あったのに、そうしなかった」とAFPに不満をぶちまけた。

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賃金格差は19%

イネスは、メルケル首相の実績は「尊敬に値する」ものの、女性の地位向上のために必要なドイツ社会の構造改革は実現できなかった、と指摘する。ドイツの男女の賃金格差はEU諸国のなかでも大きく、2019年には19%だった。その一因としてドイツでは女性の多くがいまもパートタイムで働いていることがある。さらに国民選挙で選ばれる連邦議会の女性議員数はメルケル政権発足時よりも減少しており、2013年には36%だったのが現在は31%でしかない。

格差はメルケル首相の所属政党、ドイツキリスト教民主同盟内の保守勢力のせいかもしれない。夫婦に有利な税制を変えてほしいという声は無視され続け、収入の低い配偶者(通常は女性)がフルタイムで働く意欲を損なった。

2020年になってようやく、ドイツ社会民主党が後押ししていた改革、すなわち取締役会における女性クォーター制の義務化が決まる。また、ようやく成立した男女の賃金格差是正のための賃金構造透明化促進法は保守勢力によって長期の審議を余儀なくされた。

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「脇目も振らず走り続ける」

アンゲラ・メルケルは、旧共産圏の東ドイツで育った。そこでは女性の就労を助ける保育園は無料で、同一賃金は憲法に定められていた。牧師の娘だった自分がここまでやってこられたのは物理学の学生として競うことを学んだおかげだとメルケル首相は最近、回想している。もっともメルケル首相が「フェミニズムを意識したのは首相就任後だいぶ経ってからでした」と、ドイツ・マーシャル・ファンド副所長で政治学者のスダ・デビッド・ウィルプは言う。

しかし、それも仕方がないことで、「メルケル首相は次々と起きるトラブルを解決するために脇目も振らず走り続けていたのです」とスダ・デビッド・ウィルプは言う。

冷静さで知られるメルケル首相は、トルコのエルドアン大統領やドナルド・トランプ、ウラジミール・プーチンなど、強権的な政治家たちとも堂々と渡り合ってきた。

彼女の任期中、元ドイツ国防大臣のウルスラ・フォン・デア・ライエンは女性初の欧州委員会委員長に就任した。現国防大臣であるアネグレート・クランプ=カレンバウアーはメルケル首相の後継者に推されていたが、ミスを重なり、大きなダメージを負った。

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「その生き方や運命、成功をつかんだこと」

しかし、イネス・カパートはまだ「手ぬるい」と感じている。メルケル首相は進歩的でフェミニストな女性政治家の育成にもっと力を注ぐべきだったと思っているのだ。現に、所属政党のドイツキリスト教民主同盟では現在「家父長的な考えが復活」し、「バリバリの性差別主義で保守的な男性がのさばりはじめて」いるそうだ。

結局、メルケル首相はフェミニストなのか? 「イエスでもありノーでもある」と言うのはドイツの著名フェミニスト、アリス・シュヴァルツァーだ。

「フェミニズム、少なくとも本人がイメージするフェミニズムというものに対してメルケル首相は違和感を覚えていると思います。ですが、その行動自体、その生き方や運命、成功をつかんだ点でメルケル首相はフェミニストなのです」とアリスはシュピーゲル誌に語った。

ドイツ総選挙は9月27日、中道左派の社会民主党が勝利を宣言した。しかし過半数を握る政党は出なかったため、連立政権が組まれることとなり、その交渉がまとまるまではメルケル首相がその職にとどまることになった。

僅差で敗れたキリスト教民主社会同盟党首アルミン・ラシェットは最近、男女平等を推進する上で首相の存在は重要な役割を果たすことができ、「女性よりも男性が首相に向いている」と主張した。

一方、勝利した社会民主党のオラフ・ショルツの選挙ポスターには、「次期首相になるだけの理由はある」と書かれていた。

text : Chloé Friedmann with AFP(madame.lefigaro.fr)

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