誕生から50年、「ビジネスメール」は滅亡する?

Society & Business 2021.10.05

次から次へと届くメールのせいで、気が散って集中できない。メールがビジネスライフの悩みの種という人もいる。チャットを好むZ世代ではメール離れが進む。誕生からちょうど50年を迎えるメール。早くも「ゴミ箱」行き?

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煩わしいメールに代わって、若い世代の会社員はSlackやTeams、Whatsappなどのアプリケーションを利用している。
photo: Getty Images

「メールが1日に100通以上届く。まさに地獄です。終わりがない。振り分けて返信するだけでとんでもなく時間がかかる。どんどん溜まるし、自分がそれまで何をしていたのかわからなくなってしまう」

47歳、高級ブランド幹部のオリヴィエは語る。彼にとって、受信ボックスの「未読メール」通知を放っておくなどありえないことだ。怠け者と思われるリスクを冒したくはない。「まるで緊急の用件が四六時中舞い込んでくるような感じです。情報にヒエラルキーがなくて、とても疲れる」。送信時刻「01:03」と記載されたメールをしょっちゅう送ってくる直属の上司については?

「あんなものは嘘。自分が夜中まで働いていると思わせるために、時間指定で送信しているだけでしょう!」

最新の調査によれば、企業幹部がメール管理に割く時間は、1日に3~5時間。オリヴィエをはじめ多くの幹部が、「受信ボックスの横暴」とさえ呼ばれる過酷なメールの重圧に晒されている(スマートフォンに通知表示が現れた瞬間に返信しようと思わない人は別だが)。2017年にアメリカで行われた調査によると、メールボックス内にある未読メールは平均199通だという!

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時代遅れになりつつある革命

メグ・ライアンとトム・ハンクス主演のロマンスコメディ『ユー・ガット・メール』のように、受信ボックスに届いた「1通のメール」をうきうきした気持ちで読む、そんな時代は遠い昔のよう…。映画が公開された1998年は「スパム」という言葉がオックスフォード英語辞典の項目に加わった年だ。1971年に開発されたメールは、当初はオフィスに正真正銘の革命をもたらした。ファックスの紙詰まりとも、タイミングの悪い電話とも、昼休みの最中にやって来る不意の来客ともおさらば。便利、速い、ほぼ瞬時に送れる「電子メール」の登場で、世界は「摩擦ゼロ」と謳われた新たなコミュニケーションモードに移行した(もちろん「BCCで返信」や「未読としてマーク」などの細かい機能を使いこなせなければならないが)。

「アシンクロ型」つまり非同期コミュニケーション時代の到来だった。2019年1月に視聴率調査会社メディアメトリーが発表した数字によると、フランスでは2270万人が毎日少なくともひとつのメールアカウントにアクセスしているという。メールは現在もビジネスの世界で最も利用されているコミュニケーション手段であり、通信量も膨大だ。2022年には世界中でやりとりされるメールの数が3470億通に上るとする推計もある。この数字にスパムは含まれていない!

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集中力の敵

しかし今日、メールは時間泥棒、非生産的、時代遅れとさえ言われることもある。メールの終焉を予言する声もある。情報技術上級教員資格を持つアメリカ人研究者カル・ニューポートもそのひとりだ。今年の春に出版された著書『A World Without Email』で彼は、デジタル革命をもたらしたこの技術が、いかにしてビジネスライフにおけるフラストレーションと疲労の元凶となるに至ったかを説いている。情報、コミュニケーションの両面でメールは過剰だという。もちろんテレワーク導入もこの現象の改善には役立たなかった。

パンデミック以来、「atawad(any time, any where, any deviceの略。”いつでもどこでもどんなデバイスでもコネクトできる”を意味するビジネス界の隠語)」が現代のマネージャーたちの新しい掛け声となった。同時に、「つながらない権利」は徐々に浸食されていった…。エクス=マルセイユ大学経営科学講師のタリク・シャコールによると、「好むと好まざるとに関わらずテレワークが実施され、メールはマネージャーにとって部下を管理するための武器になった。物理的管理が不可能となったからです。かわりに“メールで連絡の取れる時間”、“メールの返信に要する時間”といった道具を利用して、デジタル管理する手法が登場したのです」。つまりメールがバーンアウトを加速させるというわけだ。

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時代は”マルチチャンネル”へ

昨日までオフィスの王様だった電子メールがいま、「ハブ」と呼ばれる新たなコミュニケーション形式に脅かされている。多くの企業で、社員は「マルチチャンネル」に移行している。メッセージがさまざまな経路でやりとりされているのだ。たとえばTeamsのようなビジネス向けツール、Slackのようなコラボレーションプラットフォーム、WhatsAppやTelegramなどの個人用アプリケーション、ツイッターやインスタグラムをはじめとするSNSのメッセージサービスなどなど。その結果、複数の情報の流れが幾重にも重なり合う事態が生じている。とはいえ調査会社Odoxaが今年1月に実施した調査によると、ビジネスシーンで最も利用価値が高いのはSNSとメールと回答した人が39%に上った。

多様なコミュニケーション回路を操るのは年長者には厳しいかもしれないが、生まれたときにはすでにスマートフォンが存在していた(1995年以降生まれの)Z世代は、このミルフィーユ状のコミュニケーションコードに熟練している。 テック業界専門のフリーリクルーター、35歳のシャーリー・アルモスニ・シッシュはこうしたデジタル・ネイティブのひとり。彼らにとって、メールは自然なツールではない。

「メールは大企業で利用されるツール。メールというと、“追跡可能性”、“法律上の問題”、“上下関係のルール”を連想し、重いイメージがあります。スタートアップ業界では組織はできるだけフラットなほうがいいと考えられていますから、コミュニケーションでも全員が同じレベルにあるというのが前提です。つまり透明性がより高いのです」

彼女はビジネスで知り合った多くの人たちと同じく、主にSlackを利用している。コミュニケーションを取るときは「フォーラムモード」を活用する。「特定のテーマについてディスカッションするチャンネルもあります。よりダイレクトで速い。フルリモート(100%テレワーク)で働く人たちにとても適したツールです。たとえ勤務時間帯がずれていても、すべての社員がアクセスするのは同じプラットフォームですから」

デジタルネイティブの若者と彼らが活用する新しいツールは、メールをお払い箱にするのだろうか? 前述のシャコールはメールはまだまだ廃れることはないと言う。

「メールは戦略とオフィシャルの側面を持ったコミュニケーション手段。チャットにはそうした側面はなく、あくまでも実用的、短期的な利用に限られる。形式を重んじる場面では、やはりメールが利用されています」

2011年に、当時アトス(クラウド業界のヨーロッパトップ企業)の最高経営責任者だったティエリー・ブルトンは、社内では3年以内にメールが完全に使われなくなると予言していたが…。見事にはずれ! 気をつけて。あなたがこの記事を読み始めてから、もう27通の「未読」メッセージが受信ボックスに溜まっている…。

text: Séverine Pierron(madme.lefigaro.fr)

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