高級ミネラルウォーターの人気はいつまで続く?

Society & Business 2021.10.11

日本、アメリカ、ポルトガル、アルゼンチン、スロベニア……。フランスでも世界中から届くミネラルウォーターの人気は高まっている。しかし、環境問題への取り組みを考えた時、果たしてこの人気は続くのだろうか。

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手に入りやすくなった輸入ミネラルウォーター。photo:Getty Images

富士山麓でくみ上げられた水、オーストラリアの雨水、南極の氷山の水……。ミネラルウォーターの多くは地球の反対側から届けられ、非常に高い評価がつけられている。

フランスでは、つい最近までニッチだったミネラルウォーター市場がどんどん拡大し、いまでは大型チェーン店で販売されるようになった。しかし、これは環境に対する負荷を減らそうという世の中の動きと矛盾してはいないだろうか。CNRS(フランス国立科学研究センター)研究ディレクターで、水と環境の専門家のアガット・ユーゼンと、ボルドー郊外マルティヤックにある星付きスパホテル『Les Sources de Caudalie』内のウォーターソムリエ、オーレリアン・ファルイユと一緒に考えてみよう。

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ボトルに夢と高級感を込めて

フィジーウォーターやハワイのコナディープ・ウォーター、南極の氷山が溶けた水を集めたスヴァールバル・ポーラーアイスバーグウォーターなど、ここ20年、高級ミネラルウォーターが人気だ。パリにはウォーターショップという専門店もあり、さまざまななボトルウォーターを味わうことができる。

しかし、ボトルの中身は何が違うのだろうか。ユーゼンは「大抵の場合、水の味の違いはほんの少し。その違いは、ミネラル成分に関係しています。つまり、どこで採れた水か、どんな土を通って濾過されたかによって、個性が出てくるのです」と語る。

「例えば、フィジーの水などは、火山岩層で自然に濾過された地下水なので、比較的ミネラルの風味が強くなります。一方、ヌーヴェル=アキテーヌのアバティーユの水は、主に砂質の層を通ってできたものです。深さ472メートルからくみ上げられた、ミネラル分が少ない無炭酸の水で、大変まろやかで甘みがあります」とファルイユは付け加える。

このような風味の違いは、専門家でなければほとんどわからないかもしれない。しかし、100ユーロほどするものもある高級ミネラルウォーターの最大の特徴は、そのボトルの中に夢が詰まっているということだ。「昔からある、よく知られた商品とは違うストーリーを語ることで、新しい体験をお客様に提案することができます」とファルイユは指摘する。「高級ミネラルウォーターには実用性もあります。コース料理で一品食べて次の一品に移る時に、こういう水は口の中に残った味をさりげなく消してくれる。例えば、デンマークのミネラルウォーター、イスキルド(Iskild)は、目に見えない細かい気泡が入っていて舌を軽く刺激するのが特徴。だから、後味を消す効果があります」。塩気のある料理から甘味に移る時に最適だ。

 

ミネラルウォーターは年々手には入りやすいものになっている。「かつて星付きレストランや高級食品店だけで売られ、特定の社会階層向けのニッチ商品だった高級ミネラルウォーターは、グラン・ヴァンと書かれたワインと同じように、みんなが手に取りやすいものになりました」とユーゼンは言う。実際、輸入ミネラルウォーターをモノプリやカルフール、フランプリなど、フランスのスーパーで見かけることも珍しくない。その場合、ボトル1本で2ユーロから14ユーロという手の届きやすい値段になっている。

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イメージ戦略

しかし、その一口には極めて巧妙なストーリーが仕込まれている。「これらの製品のマーケティングは夢を売るために設計されており、個人や集団の想像力や信条を利用しています」とユーゲンは分析する。「いわゆる『純度の高い』飲み物だというイメージを売り、これを飲むと生まれ変わるというような気分を形にして届けているのです。純度を探し求めることは、貴重な水源を汚染する可能性がある人間生活から遠く離れた、より遠く、より深い所から水をくみ上げることにつながります」

さらに水の容器は中身と同じ、もしくはそれ以上に重要だ。このことは、売られているボトルを観察すればすぐわかる。香水の瓶を思わせるボトルの中には、有名デザイナーやスワロフスキーなどジュエリーブランドが手がけたものさえある。「各社がアピールするミネラルが豊富で純度の高い水は、私たちが知っている水源にも存在します。これらの商品の価値は純粋に象徴的なものなのです」とユーゼンは語る。

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地球へのダメージ

高級ミネラルウォーターと普通の水の違いがわずかだとしても、その商品が生産され手元に届くまでの間に、地球へのダメージの差は相当大きくなっている。なぜなら、遠くから水をくみ上げることで、必然的に輸送に伴う温室効果ガスの排出量を増やしてしまうからだ。「さらに水が入ったボトルはかなりの重量であることから、環境負荷は倍増してしまいます」とユーゼンは続ける。

また水利用の問題には、倫理的な問題が発生することも指摘しておかなければならない。「経済的な利益のために、特定の水源を民営化してもよいのか? 水はみんながアクセスすることのできる公共財ではないのだろうか? いまこの問いかけは重要です」とユーゼンは投げかける。

フランスでは数年前から、環境意識が高まっている。この傾向はコロナ禍においても強くなるばかりで、例えば、消費者がなるべく生産者からのルートが短いほうを選ぼうとする動きもある。ファルイユは、このような新しい取り組みに対して、自分たちも矛盾していてはならないと考えている。「レストラン業界のプロとして、地元で採れた旬のオーガニック食材を勧め、地産地消を唱えているのにもかかわらず、一方で、カーボンフットプリント(商品の調達から廃棄・リサイクルまでにかかるCO2排出量)の大きい水を提供するわけにはいかないのです」と言う。

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郷土の価値を見直す

コロナ禍で、グローバル化の限界が見えてきたように思える。世界中でさまざまなな活動がストップし、食料供給にも大きな問題があることが明らかになっている。ファルイユは「飲食店経営者の多くは、食材の配達が何週間も遅れ、調達に苦労しています。このような状況でわかるのは、何千キロも離れた場所に食材を探しに向かうよりも、地元で採れるものを活用する必要があるということです」と語る。

 

 

繰り返されるロックダウンの間、ファルイユはその方法について改めて考え、フランス国内のミネラルウォーターだけを取り上げたウォーターリストを作ることにした。このリストはフランスのスパホテル『Les Sources de Caudalie』内のレストランで見ることができる。「エコ・レスポンシブルな形で、フランス国内の水の価値を見直そうと考えています。本当に『高級な』ミネラルウォーターは、この土地に隠れているはずです。ブルターニュ、バスク、コルシカなど、いろいろな水源を訪ねて回りました。フランスは非常に恵まれた国なので、フランス人自身にそれを伝えなければと思っています。地球の反対側に水を探しに行く必要なんて、全然ないのです」

2021年には、輸入ミネラルウォーターの人気に陰りが出るだろう。しかし高級なイメージを保ちながら、よりローカルな方法で水を調達することができるなら、ミネラルウォーターの需要はこのまましばらく続くことになるだろう。

フランスは世界でも特に水に恵まれた国の一つだ。そして、その中で最も環境にやさしい水は……水道水だ。WHOが定めた飲料水の基準を満たしており、常に水質管理が行われている。お金を払って買う必要がないという点もポイントが高い。

text:Elise Assibat (madame.lefigaro.fr),traduction : Aki Saitama

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