ブラジャーはがんの原因? 医療フェイクニュースにメス。

Society & Business 2021.10.15

9月30日に刊行した出版物で、フランス国立保健医学研究所が、健康にまつわる社会通念、フェイクニュース、思い込みを解剖した。女性の健康に関わる検証から、いくつかの例をご紹介する。

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9月30日に刊行した出版物で、フランス国立保健医学研究所が、健康にまつわるフェイクニュースを解剖。photo :Getty Images

インターネットユーザーが誤った情報に騙されないように、また、厳密な科学言語を取り戻すために、フランス国立保健医学研究所(Inserm)は2018年にウェブサイト Canal Détox を立ち上げ、フェイクニュースの撲滅を目指して動画や記事を配信している。パンデミックを経て同研究所は啓蒙活動として、ウェブサイトで提供した情報を『Fake news santé(健康フェイクニュース)』(1)という一冊にまとめた。執筆を手がけたのは科学ジャーナリストのロリアンヌ・ジェフロワとレア・シュリュギュだ。

この本では女性の健康に関するテーマも多く取り上げられている。これらの章はコシャン研究所のダニエル・ヴェマン、マルセイユ腫瘍学研究センターのパルマ・ロッシ、ふたりの研究者の協力を得て執筆されたもの。誤った社会通念から、代表的な例を紹介しよう。

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ブラジャーはがんの原因ではない。

考案者のエルミニー・カドールは、ブラジャー第1号をウェルビーイングの意の「Le Bien-Être (ル・ビアン=エートル)」と命名したが、いまや一部の女性たちの間でブラジャーの評価はガタ落ち。ロックダウン期間中に多くの女性の間でノーブラの動きが広まったことからもその不人気ぶりが伺える。ブラジャーを嫌う理由は人によってさまざまだが、なかには誤解に基づいているにもかかわらず、いまだにまことしやかに語り継がれる説もある。たとえば、1995年に医師のシドニー・シンガーが広めた噂もそのひとつ。『Dressed to Kill』の共著者であるシンガーは、著作のなかで、ブラジャーを着用すると、リンパ液の循環と毒素の排出が阻害され、乳房に悪性腫瘍が形成される原因となると論じた。

これまでのところ、この仮説を証明する厳密な科学的研究はひとつも発表されていない、とジャーナリストのロリアンヌ・ジェフロワとレア・シュリュギュは強調する。彼女たちが論拠とするのは、アメリカで行われた研究成果。2014年に実施された乳がん患者と健康な女性との比較試験から、ブラジャーの着用と乳がん発症の間には一切関係がないことが証明されている。しかも、カップの大きさやワイヤーのあるなし、着用期間との関連性もないという。一方、乳がん発症の明らかなリスク要因と考えられるものには、アルコール、喫煙、早発月経、高齢妊娠、肥満があげられている。

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ヒトパピローマウイルスに感染するのは女子だけではない。

ヒトパピローマウイスル感染症は、いまもタブー視されている性感染症のひとつ。感染しても90%はウイルスが自然に体外に排出されるが、残りの10%は有害な種類のウイルスに感染した場合、病気を引き起こすことがある。これらのウイルスへの感染が原因で子宮頸がんを発症する人はフランスで年間3000人に上り、1年間で1000人が亡くなっている。そのため、フランスでは2006年以来、女子にはワクチン接種が推奨されている。しかし男子も無関係ではないと著者たちは注意を促す。このウイルスは「肛門、口腔、咽頭がんの原因」でもあり、年間6300人の発症者のうち3分の1を男性が占めている。

このためフランスでは昨年からワクチン接種対象を11歳以上の男子にも拡大した。ワクチンは「ガーダシル9」という名称で、2021年1月1日から接種費用は公的医療保険が全額負担することに。子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス感染数が2005~2015年で21.5%減少したオーストラリアをはじめ、海外ではワクチン接種推進キャンペーンが効果を上げている。それを見る限り、啓発活動はこの病気の劇的な減少に効果を発揮しそうだ。

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クランベリーが膀胱炎に効くという保証はない。

尿路感染症のひとつである膀胱炎は多くの女性を悩ます辛い病気だ。女性の2人に1人が生涯で1度は経験するという。症状の緩和には、まず十分な水分補給を、と専門家はアドバイスするが、自然療法愛好家はクランベリーをベースにした食品(ジュース、バー、サプリメントなど)も有効だと主張する。クランベリーに含まれる成分のひとつであるプロアントシアニジンが膀胱炎の原因となる大腸菌が尿道や膀胱へ定着するのを阻止するといわれているのだ。

著者たちがこの件について詳しく調べたところ、細菌の尿路内壁への固着率を下げ、膀胱炎の発症を抑える効果を実証する実験結果もある一方で、この仮説への反証となる科学的研究もあることがわかった。「クランベリー入りのサプリメントとビーツ入りの偽薬を比較して、膀胱炎の発症頻度に対する効果が変わらないことを証明した研究もある」と著者たちは強調する。またフランス国立食品環境労働衛生安全庁は、クランベリーの膀胱炎予防効果は現在のところ実証されていないと見解を示している。

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タンポンに含まれる成分は、毒素性ショック症候群の原因ではない。

毒素性ショック症候群は稀に見られる感染症のひとつだ。原因となる黄色ブドウ球菌は皮膚や粘膜に常在するが、TSST-1と呼ばれる毒素を産生し、気づかずに放置すると組織の壊死や死亡に至る場合もある。数年前からタンポンが感染の原因だとして罹患者たちから非難の声が上がっている。確かにタンポンを長時間体内に入れておくと、細菌が繁殖しやすい環境が作られ、有害な物質が血液に入り込みやすくなる。タンポン利用者の1~5%がTSST-1を産生できる種類のブドウ球菌の保菌者といわれている。

現在のところ「原因を特定できない」として、Insermの本ではタンポンの成分を感染原因とする仮説を退けたうえで、国立ブドウ球菌レファレンスセンターが実施した大規模なタンポン成分調査の結果を引用している。複数の大手メーカーの製品から6000点を抽出して分析した結果、非難されているような毒素の生成や増殖を助長する製品は見つからなかった。「さらに心強いことに、調査したタンポンのなかにはブドウ球菌の増殖をむしろ抑制するものもあるようだ」と著者たちはまとめている。

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人工妊娠中絶実施率が最も高いのはティーンエージャーではない。

9月27日は世界妊娠中絶の権利の日だった。フランスでは1975年1月17日に合法化された基礎的医療行為のひとつだが、SNS上では中絶反対派が盛んに宣伝活動を繰り広げている、いまなお国内外で危ういテーマだ。通説や風説が入り乱れるネット上で槍玉に上がっているのが、ティーンエージャーだ。性教育と避妊法に関する知識が不足した10代の若者が人工妊娠中絶の主な利用者だと思われているからだ。

フランス調査研究評価統計局(Drees)から発表されたデータを一瞥すれば、現実はまったく異なることがわかる。「フランスの15~17歳の若い女性の中絶数はここ10年間で明らかに減少している。人工妊娠中絶を受けたティーンエージャーの数は2010年には1000人あたり10人であったのに対し、2019年は同6人にまで減っている」と著者たちはまとめている。実際に近年ではフランス各地にある家族計画センターの活動のおかげで、無料で匿名の相談が行われ、ティーンエージャーにとって、性に関する情報や避妊法にアクセスしやすい状況になっている。

実際のところ人工妊娠中絶の実施率が最も高いのは20~29歳で、この年代で中絶を選択する女性は1000人あたり28人。調査では年齢以外にも社会経済的地位の低い層で中絶率が高くなる傾向も指摘している。

(1)Laurianne Geffroy, Léa Surugue共著『Fake news santé』Cherche Midi出版刊(Insermとの共同出版) 14ユーロ

 

text:Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)

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