フランスで法改正! すべての女性に生殖補助医療を。

Society & Business 2021.10.22

フランスで、2021年6月29日に国民議会で生命倫理法改正案が可決され、3カ月後の9月末には、すべての女性に生殖補助医療の適用を認める法令が発効された。不妊治療や臓器移植など、改正法がフランスにもたらす変化とは?

211019_iStock-825736756.jpgphoto: iStock

独身女性とレズビアンカップルも今後、生殖補助医療が利用できることになるーー6月29日、フランスの国民議会で、賛成326票、反対115票、棄権42票を得て、生命倫理法の改正案が可決された。それから3カ月を経た9月29日、すべての女性を対象とする生殖補助医療の適用とその条件を定めた法令が成立し、官報に掲載された。今回の改正法で、フランスにはどんな変化が起きるのだろう。
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すべての女性に生殖補助医療が開かれる。

改正法が適用される前の2011年7月7日の生命倫理法では、生殖補助医療を受けることができたのは、異性カップル(婚姻、PACS、事実婚)のみだった。不妊の問題を抱えていると医師が認定した場合、また異性カップルで将来親となる男女のどちらかが、新生児に遺伝するおそれのある重篤な疾患を抱えている場合に限られていた。

法改正により、この秋から、独身女性とレズビアンカップルも生殖補助医療を受けられるようになった。異性カップルでは生殖補助医療を利用できるのは43歳まで。彼女たちにも今後は異性カップルと同じ権利が認められる。生殖医療を希望する独身女性たちも、海外へ行く必要がなくなった。2020年に日刊紙『La Croix』に掲載された調査によると、毎年2400人の独身女性がベルギーやスペインで人工授精や体外受精の施術を受けていたという。治療にかかる費用は400~11000ユーロと記事は伝えている。

治療費の負担は?

健康保険を管理する機関アシュランス・マラディによると、人工授精の費用はおよそ950ユーロ、体外受精の場合は3000~4000ユーロかかるという。政府は今後、生殖補助医療の公的医療保険適用範囲を43歳までのすべての女性に拡大する方針だ。これまでも異性カップルに対して、体外受精は4回まで、人工授精は6回まで、社会保障制度が全額負担していた。これからはレズビアンカップルや独身女性にも同じ条件が適用されることになる。
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精子・卵子提供者の匿名性が廃止される。

第三者からの精子や卵子の提供で出生した子どもは、今後、提供者を知ることができるようになる。出自を知る権利は、生命倫理改正法第3条に規定されているように、子どもが成人に達した時から認められる。改正法には出自へのアクセスを管理する委員会の設置も盛り込まれている。しかし提供者と子どもの間にはいかなる親子関係も生じない。また提供者には「提供した精子や卵子によって出生した子どもと会う義務は一切ない」とアニエス・ビュザン元保健大臣は強調していた。提供自体については匿名性の原則が保持され、子どもを望むカップルが提供者を選択することはできず、同様に提供者が親を選ぶこともできない。

卵子の凍結保存が可能に。

男性も女性もこれまでは、医療上の条件や、あるいは、すでに卵子を提供したことのある女性など、一定の条件を満たさない限り、自分の配偶子(卵子や精子)を保存することはできなかった。こうした例外を除いては、妊娠率が低下する年齢になったときのために自分の配偶子を凍結保存することは禁止されていたのだが、今回の改正で、この禁止事項が撤廃される。ただし年齢制限はある。アニエス・ビュザン元保健大臣は、42歳での妊娠を上限として、将来の妊娠のために「30歳から32歳」の間に卵子を凍結保存することが認められるようになると語っていた。国民議会では、不妊治療への取り組みについての国家計画を盛り込んだ修正案も可決された。
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臓器ペアドネーション、献血、骨髄提供について。

臓器移植へのアクセスの改善はフランス政府が掲げる目標のひとつで、生体臓器移植のペアドネーションも今後促進される見込みだ。未成年や成年被後見人から親への骨髄提供の可能性も広がる。献血について、改正法では、供血者の選別基準はもっぱら供血者と受血者双方の安全性を考慮して設定することと規定されている。したがって、献血にもその他の臓器提供と同様の安全衛生条件が適用されることになり、性的指向による選別は撤廃される。

出産していない女親と子どもの関係は?

2013年に同性婚を認める法律が採択されて以来、出産しなかった方の女親は生まれた子どもと養子縁組できるようになったが、そのためには数多くの法的障害を乗り越えなければならなかった。改正法では、異性カップルの場合と同様に、遺伝子上の母親が子どもの戸籍上の母親となる。遺伝子上の母親のパートナーの方は、事前連帯認知証明書に署名することで、子どもとの親子関係を登録することになる。これは結婚していない異性カップルと同じ仕組みで、妊娠期間中に公証人の前で証明書にサインをすることで親子関係が認められるというものだ。

ヒト受精胚の研究について。

ヒト受精胚の生殖補助医療研究については今後さらに厳しい規制が設けられる。ヒトの胚に動物の細胞を加えたキメラ胚の作製、研究目的での胚の作製、クローン胚の作製、胚の再移植は今後も厳禁とされる。胚や胚由来の細胞核に関する研究許可申請手続きは簡易化される。
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遺伝子検査は?

フランスでは医療上の理由以外で遺伝子検査を行うことは禁止されている。遺伝専門医が検査を行えるのは、疾患の特定など、具体的な目的のためだけ。これまでは、検査でほかのことがわかっても、医師には患者にそれを知らせる権利はなかった。しかし生命倫理改正法の施行後はこれが認められることに。ただし医療目的以外での遺伝子検査は依然として禁止されている。

献体について。

献体を安全に実施するために、今年9月から規制枠組みが導入された。これまでにフレデリック・ヴィダル高等教育・研究・イノべーション大臣の委託を受けて発足した研究グループから、実施状況の監視強化を求める初めての勧告が出されている。

インターセックスの子どもたちについて。

男女両性の特徴を持って生まれた子どもたちへの支援拡充を盛り込んだ修正案が国民議会で採択された。子どもが性分化疾患を診断された場合、近親者にはただちにリール、リヨン、モンペリエ、パリにある専門のリファレンスセンターが紹介される。

残された課題。

とはいえ、いくつかの課題も残されている。とくに生殖補助医療利用希望者の相談に適切に応じる体制を整備することと、増加が見込まれる新規申請に医療機関がどう対応するかが問題だ。治療対象者に優先順位を設けるべきかどうかも今後議論になるかもしれない。精子や卵子の提供者が不足した場合の対応策の検討も今後の課題だ。いずれにせよオリヴィエ・ヴェラン保健大臣が6月初頭に国民議会で約束したように、9月から女性同士のカップルも生殖補助医療を受けるための登録申請をすることができるようになった。

text: Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

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