「ミスコンは性差別的な価値観を広める」フランスの男女平等大臣が提言。

Society & Business 2021.10.29

10月21日、フランスのエリザベート・モレノ男女平等担当大臣は、テレビ番組「ファス・オ・テリトワール」に出演し、時代に逆行したミスコンの規定を非難した。美人コンテストの世界に新しい風が吹いていることを示す発言がまたひとつ。ミスコンをめぐる現状を見てみよう。

【写真】ビキニ、ワンピース、トリキニ……ミス・フランスの水着変遷。

aflo_37608927.jpeg

2017年のミス・ユニバース世界大会では、フランス代表に栄冠が輝いたが......。photo:Aflo

「コンテストの規定は完全に“has been”。変化するべき時がきています」。エリザベート・モレノ男女平等担当大臣はそう述べて、ミス・フランス・コンテストの規定が時代後れだと批判した。10月21日にTV5モンド、ウエスト=フランス、ニース=マタン共同制作のテレビ番組「ファス・オ・テリトワール(Face aux territoires)」に出演した大臣は、子どものいない、これまで1度も結婚したことのない独身女性しかコンテストに参加できないことに憤りを表明。「なぜミス・フランスは風刺的な表現をしてはいけないのか? なぜミス・フランス候補者がトップレスで乳がん撲滅の活動すると出場資格を剥奪されるのか? なぜママはミス・フランスになれないのか?」と疑問を投げ掛けた。

一方、男女平等高等評議会(HCE)は2019年に公表された「フランスにおける性差別の状況についての年次報告書」のなかで、ミスコンは「時代錯誤な風刺的産物」であるとして厳しく批判していた。フェミニスト団体もこの見方に同意する。「私たちは毎年、性差別的な価値観を広めるこのようなコンテストの開催に抗議していますが、これまで何も変化していません」と、フェミニスト団体「オゼ・ル・フェミニスム!(Osez le féminisme!)」代表のアリサ・アラバールも最近、『ル・モンド』紙の記事の中で怒りの声を上げている。

---fadeinpager---

オゼ・ル・フェミニスム! の訴え

同団体は美人コンテストへの参加が認められなかった3人の女性たちとともに、ミス・フランス運営会社を労働裁判所に提訴することに決めた。コンテストが労働法に違反し、差別を行っているという訴えだ。オゼ・ル・フェミニスム! はエンデモル・プロダクションとミス・フランス運営会社に対し、10月15日にボビニーの労働裁判所に訴状を提出した。

怒りの根拠は? 同フェミニスト団体によると、コンテストへの参加は労務の提供に当たるという。一方、コンテストの出場規定には差別的な条項が含まれている。つまり、ミス・フランスの選考基準は労働者の募集採用時の差別に当たるというわけだ。

では、ミス・フランス・コンテストはもはや“過去のもの”となったのだろうか? ミス・フランス運営会社の最高経営責任者であるシルヴィ・テリエは2018年10月、コンテストの近代化にも「トランスセクシャル」の女性が出場することにも反対するつもりはないと発言していた。

---fadeinpager---

ミス・トランスジェンダー

ル・パリジャン紙のインタビューに応じた彼女は「ミス・フランスに女性が応募しようが、性別を変えた男性が応募しようが、つまり身分証明書に女性と記載されていれば、医療機関を受診させるようなことはしません。私たちはけいさつではないのですから」と説明した後、こう付け加えている。「規定上、禁止されているわけではありません(…)」。ミス・フランス運営会社社長のアレクシア・ラロシュ=ジュベールも10月17日付けのル・パリジャン紙で自分は「フェミニスト」であると主張した上でコンテストを擁護している。

「今後、番組ではこれまで以上に、出場者たちが自分自身について語り、コンテストに参加した動機や、この経験をどう生かしたいと思っているかを説明する時間を設けたいと思っています」と彼女は述べている。「ミスは単なるビキニを着たかわい子ちゃんではありません。私たちが女性の品位を貶めているなんて冗談でしょう!」2018年6月29日、ミス・スペインのタイトルを獲得した史上初のトランスジェンダー女性となった26歳のアンヘラ・ポンセは、同年11月にはトランスセクシャルの女性として初めてミス・ユニバースに出場した。ここ数年、度重なる騒動で揺れる美人コンテストという世界で起きた小さな革命だった。

その筆頭は、アメリカで起きた美人コンテスト恒例の「水着審査」の廃止をめぐる騒動だろう。2018年6月にミス・アメリカ取締役会会長のグレッチェン・カールソンがこの決定を発表すると、様々な方面から批判の声が上がった。1ヶ月後には、アメリカ全土の美人コンテスト主催者が署名活動を展開し、ミス・アメリカ委員会全メンバーの解任を要求する事態にまで発展した(公式発表では、地方の運営団体に対して発表内容を秘匿していたことを解任要求の理由としている)。2018年10月8日、この決定に反対する4つの州(ジョージア州、ウェストバージニア州、ペンシルベニア州、4つ目は不明)が全米美人コンテストから除外されることとなった。

---fadeinpager---

ポップカルチャーの影響

しかし、この物議を醸した決定は「古臭い」価値観に囚われた美人コンテストの近代化を目指すプロセスの一環として行われたものだった、と『ミス・フランスたちの秘密の歴史』(1)の著者であるグザヴィエ・ドゥ・フォントネーは説明する。フォントネーはかなり前から水着審査の廃止を視野に入れていた。視聴者の低迷に加えて、ポップカルチャーで美人コンテストがたびたび風刺的に取り上げられ、ミスコン女王たちのイメージは年を追うごとに大きくダウンしている。

2006年には、アビガイル・ブレスリンが演じる太っちょのおてんば娘オリーヴが、リトル・ミス・コンテストで大騒動を繰り広げるコメディ映画『リトル・ミス・サンシャイン』が公開された。12年後の2018年8月にNetflixで配信が開始されたドラマシリーズ『欲望は止まらない!』は、いじめられっ子の少女が美人コンテストに出場して仕返しをするというストーリーだったが……。ドラマは配信開始直後から、「肥満恐怖症」を煽ると非難され、議論を呼んだ。

---fadeinpager---

“美と誘惑は女性にとっての麻薬”

社会は美人コンクールに批判の目を向けるが、逆にその存続を後押しする風潮もある、というのは、フェミニスト団体「ヌ・ソム・52(Nous sommes 52)」のメンバー。「広告主はもちろん、広告媒体を通して彼らが広めるメッセージもそう。また、稼げる仕事に就きたいなら、あるいは就職活動で苦労したくなければ、こんなメイクをして、あんな髪型にして、こんな服を着て、魅力的に見せなければ、と説くリポートも頻繁に発表されている」

ヌ・ソム・52はあらゆる領域で活躍する女性たちによるプロジェクトの立案や達成を推進するために、女性同士の助け合いを促す活動を行っている。上述のメンバーはこう続ける。「出場者の能力が話題になることは決してありません。結局、相変わらず美と誘惑が女性にとっての麻薬だというわけです。なぜなら私たちはそのように教え込まれているからです。ですからもうしばらくの間、こうした美人コンテストに進んで応募する女性はいなくならないでしょう」

---fadeinpager---

“古臭さ”と視聴率

「古臭い」といわれても、美人コンクールはいまだにひと昔前のコードを採用し続け、変革に苦労している、と話すのは、前述のフォントネー。25年間、母親のジュヌヴィエーヴとともにミス・フランスを運営してきた彼の言葉を信じるなら、ミス・コンテストは確かに消滅する運命にあるといえそうだ。「ミス・フランスを買収したグループ(編集部注:ミス・フランスは2002年にエンデモルによって買収された)はかなり古い経営理念を引きずっています」とフォントネーは説明する。「コンクールのSNSアカウントさえありません(編集部注:現在はインスタグラム、ツイッター、フェイスブックにコンクールの公式ページがある)」

ミス・フランス最高経営責任者のテリエは、原則上、トランスジェンダーもコンテストに応募できると言うが、こうした新しい傾向を視聴者が受け入れるかどうかについては疑問を持っているようだ。「いずれにせよ、フランス国民がいますぐミス・トランスセクシャルを選ぶとは思いません」と『パリジャン』紙のインタビューで彼女は答えている。「美人コンクールはもう時代の空気に合っていない」とフォントネーは分析する。「いつも同じショーで、舞台デザインは古臭いし、候補者のインタビューも味気ない。ミス・フランスの黄金期は、テレビ視聴者数が1300万人に上った1998年。いまはたった700万人です」

フランスの美人コンテストは20世紀初頭に誕生した。当時の社会的状況はコンテストの発展に有利に働いた。「コンテストは地方で非常に人気がありました。過ぎ去った王政時代のノスタルジックな一面を反映していたからです」とフォントネーはコメントする。「社会的なコネクションのない若い女性にとって、別の職業にアクセスする手段だった。いま、彼女たちはリアリティ番組に出演するか、モデルを目指します」。フォントネーはイタリアを例に挙げる。イタリアでは、国の主要な放送機関であるイタリア放送協会が放映していた美人コンテストが、小規模な放送局に追いやられてしまった。

---fadeinpager---

#MeToo運動の影響

コンクールの近代化を図る試みがいくつか発表されてはいるが、こうした新機軸は単なる「流行」に過ぎず、ミスコンの精神とは合わないと見る向きもある。ミス・アメリカ選考会での水着審査廃止について問われた際、1972年ミス・フランス優勝者のシャンタル・ブヴィエ・ドゥ・ラ・モットは、「#MeToo運動が台頭した後に」起きた「過激主義的な逸脱」とまで述べている。女性たちが自由に発言を始めて以来、美人コンテストも#MeToo運動の波に乗り遅れないよう必死なのだ。

ミス・アメリカの名称変更(「美人コンテスト」の名称は今後使用せず、「コンペティション」の語を用いる)や、出場者たちが着用するハイヒールをめぐる議論以外に、ミスコン女王たちの間からもフェミニスト的な声が上がっている。2018年のミス・マサチューセッツ選考会では、ティーンエージャーの頃に性的暴行を経験をした候補者が、出場資格であるミス・プリマスの栄冠を返上した。ワインスタイン事件の騒動のなかから生まれた#MeToo運動に関する悪趣味なジョークがその理由だった。

彼女が出場した選考会の舞台で、こんなコントが演じられたのだ。水着審査を廃止するという発表に困惑して、「理解できない」と憤る候補者の横で、神様に扮した男性が#MeTooのプラカードを見せている、というもの(「私もできない」と言うわけだ)。ミス・プリマスとして選考会に出場していた彼女はこの侮辱的行為を見過ごすわけにはいかなかった。彼女の行動は、1998年ミス・ワールド優勝者のリノール・アバールギルを思い起こさせる。レイプ撲滅のために闘う彼女の活動を追ったドキュメンタリー『Brave Miss World』は、2013年に公開されている。

2017年12月には、ミス・アメリカ主催者のサム・ハスケルが辞任に追い込まれている。ハスケルは2013年ミス・アメリカ優勝者のマロリー・ヘイガンに複数のメールを送り、そのなかで体重が増えた彼女を揶揄したり、尻軽女呼ばわりしていたことが発覚したのだ。

---fadeinpager---

“象徴的”な進歩

しかし#MeTooの大波が押し寄せる前から、ミスコン業界を揺るがす小さな波乱は起きていた。2012年に、ミス・トランスジェンダーのジーナ・タラコヴァは、トランスジェンダーとして史上初めてミス・カナダの選考会に出場することが認められた。また、2017年6月、通常若い女性を対象とするミス・ワールド・コンテストで、55歳のオーストラリア人のスージー・デントが第3位に入賞した。

「外観の社会」(2)著者のジャン=フランソワ・アマディユは、これを「象徴的」な進歩だが、やや「偽善的」でもある、と見る。「滑稽です。筋を通すなら、こうしたコンペティションの原則は、容姿を基準にした評価なはず」と差別監視機関のディレクターを務めるアマディユは強調する。「そうでなければ、弁論コンクールや“La France a un incroyable talent(編集部注:特技を競うコンクール番組)”と変わらない。将来、若い女性たちの水着ショーはなくなるかもしれませんが、そのかわりBMI標準値の女性が出場するようになりますよ」。日刊紙「ラ・ヴォワ・デュ・ノール(La Voix du Nord)」の2017年12月の報道によると、ミスコン出場者のBMI平均値は18,41であるのに対し、フランス人女性の平均値は22,4だという……。

1972年にミス・フランスの栄冠に輝いたシャンタル・ブヴィエ・ドゥ・ラ・モットはこう皮肉る。「女性たちにきれいなドレスや水着を着せないで、何によって視聴率を取ればいいのですか? 彼女たちの人生設計?」すなわち、いかなる変化を取り入れようと、こうしたコンペティションは本来の原則に忠実であり続けるべきというわけだ。「こうしたコンテストはもうやめるか、美を競うコンテストであることを認めるか、どちらかです」とアマディウは続ける。「不道徳とは思いません。美男コンテストやボディビル選手権も存在するのですから」

ミスコンにトランスジェンダーの女性たちが参加することについてはどうだろうか? フェミニスト団体「ヌ・ソム・52」のメンバーたちは、こうした功績を各候補者の「個人的な勝利」と位置づける。変身の成功度が評価されたのだと。「しかし、これは女性にとっての前進ではありません」と団体メンバーは強調する。「彼女たちは美しさで選ばれたのであって、才能や知性が評価されたわけではないのです」。アマディユはトランスジェンダーの参加をことさら重視しているわけではない。「特別なことではありません。2014年にユーロヴィションで優勝したコンチータ・ヴルストもそうでしたし、ロレアルにもトランスジェンダーの広告塔が何人もいます。ことの根本に関する変革ではない」

---fadeinpager---

近代化か廃止か?

とはいえ、彼は美人コンテストの近代化を否定するわけではない。「年代別に審査を行うとか、さまざまな体型の人の出場枠を設けることも考えられる」とアマディユは提案する。ブヴィエ・ドゥ・ラ・モットはミス・フランス候補者に奨学金を提供してはどうかと話す。「アメリカの美人コンクールでは教育のための報奨金が勝者に授与されます。もしこの制度がフランスに導入されたら、本当の意味でコミュニティ・プロジェクトと呼べるものとなるでしょう」

しかしアマディユはミスコンが実際に変化するかどうかについてはむしろ悲観的だ。「結局、この進歩は限定的です」とソルボンヌ大学教授は説明する。「ふくよかな女性が雑誌の表紙を飾るとか、映画界でダイバーシティが注目されるなどの圧力に屈しているだけです。社会全体を見ると、高級ブランドのモデルは相変わらず同じような体型の人ばかり。女性たちは太っても堂々と身体を見せたいと言いますが、美容整形は依然として活況を呈していてり、矛盾しています」。フェミニスト団体「ヌ・ソム・52」は「美人コンテストを近代化する最善の方法は、コンテストを廃止すること。さまざまな差別が指摘されているわけですから」と語る。そうなった場合、美人コンテストの女王たちは冠を返還しなければならないだろう。

(1)Xavier de Fontenay著「L’Histoire secrète des Miss France」2009年、Flammarion出版刊

(2)Jean-François Amadieu著「La Société du paraître」2016年、Odile Jacob出版刊

text:Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories