老後お金に困らないために、いま心がけたい3つのこと。

Society & Business 2021.11.01

From Pen Online

文/川畑明美

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photo: PeopleImages-istock

流行語ともいわれた「下流老人」。この言葉は「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」のことを指す。このような状況に陥らないためにはどうすればいいのか。30代、40代から準備することが大切だ。若い世代の人に公的年金の話をすると、少なからず「国の年金制度は破綻するから信じられない」と言われることがある。年金は国の制度だから、全くなくなることは考えにくい。年金の破たんではなく、考えられるのは下記のことだ。

・年金の支給年齢が引き上げられる
・受給額が減る
・現役の負担が多くなる

最も可能性が高いのは、高齢者の人口が増えるため、年金の支給年齢が引き上げられることだ。2030年には、65歳から74歳の人口が12.2%、75歳以上が10.7%になると試算されている。つまり、全人口の22.9%が高齢者になるのだ。人口の約1/4が高齢者では、74歳まで働く人がいなくては、社会が回らなくなる。だから「年金破たん」とは、支給年齢の引き上げが最も当てはまりやすい。将来は健康年齢と言われる74歳まで働き続けることになりそうだ。老後資金に不安がある人は「リタイヤができない」、「第2の人生を謳歌できない」ということになる。

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老後資金は67歳で年収の7倍必要?

211019_beb88fdc52287d87b6566749153b5b99ec25889f.jpg年金が2割カットされることも考えると、現在20~30代の人は年収の7倍の老後資金が必要になるかもしれない。photo: MicroStockHub-istock

老後資金は、いくら貯めたらいいのか?老後2000万円問題などあったが、最も大切なのは現在の生活水準を踏まえて、その生活を維持できる老後資金を試算することだ。年金生活になったといって、お金の使い方が今とまったく変わるとは考えにくい。退職後も現役時代と同じ生活水準を維持することも考慮すべきだ。生活水準が上がってしまうと、なかなか元の水準に戻すのは大変だからだ。

では、どのくらいを試算したらいいのか? アメリカで主流になっている老後資金の年収倍率は、67歳で年収の7倍だ。この金額は公的年金が2割カットになることを前提として割り出された倍率なのだ。つまり若い世代を対象にしているので60代の方には当てはまらない。67歳で年収の7倍ということは、年収¥500万の方ならば¥3500万と試算できる。

ちなみに、アメリカでは定年がない。本人に働き続けたいという意思があれば、年齢での退職はないのだ。ただ、67歳になると退職給付が満額受給できるので、67歳でリタイアする人が多くなる。現在の日本では、65歳でリタイアする方が多いが、70歳までの雇用が努力義務になったので若い世代は米国のように67歳まで働くことも考えられる。そのことも踏まえて「下流老人」にならないための大切な3つのポイントについて解説しよう。

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point#1
年収が上がったら上がった分だけ貯蓄も増やす。

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年収が上がりはじめる30代になったら、増えた分を貯蓄に回すことだ。iDeCoなどの制度も活用しよう。takasuu-istock

コロナ禍で退職金の給付を見直している企業が加速して多くなっている。退職金が年収の2倍ほど見込めない場合は、その分も老後資産に加算することになる。なので、年収が上がったら年収に比例して貯蓄額も増やしていく必要がある。そして注意して欲しいのは、年収が上がっても手取りは思ったほど増えないということだ。例えば年収300万円の方の手取りは239万円ほどだが、年収が500万円の場合の手取りは389万円なのだ。その2倍の年収1000万円の手取りは約712万円なので、手取りでは倍にはならない。

20代で働き始めたばかりでは、老後資金はまだまだ考えられないかもしれない。だが30代になり年収が上がったら、iDeCoなどの制度を活用して退職金に上乗せできる資金をつくって欲しい。iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度だ。iDeCoは自分で申し込みして掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用する。掛金、運用益、そして給付を受け取るときに、税制上の優遇措置が講じられていて節税にもなるので、ぜひ加入して欲しい。

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point#2
病気になった際の治療費は医療保険で大丈夫か検討。

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医療保険では通院の治療費は出ない。後期高齢者になると通院費が意外にもかかる。photo: key05-istock

また、年金生活になって最も困るのは何かも考えてみよう。年をとって病気がちになることだ。「老後の病気のために医療保険に入っているから大丈夫」と、保険で備えている方もいると思うが、多くの場合、通院で薬をもらい治療を受ける期間の方が長い。医療保険は原則、入院か手術をしないと給付金が貰えない。通院給付金があったとしても金額はごくわずかなのだ。

通院での治療費は、年金や老後資金から捻出することになる。年金生活の中で通院費はかなりの負担になるケースもある。たとえば足を悪くしてしまった場合、通院にはタクシー代が必要になる。筆者が以前住んでいたマンションの住民で、通院のために病院の近くにアパートを借りている方もいた。そのマンションからでもタクシーで1メーターの範囲で病院はあるのだが、タクシーの乗り降りも大変なのでアパートを借りたのだという。

蓄えがある方はいいのだが、年金収入だけでヤリクリしている方ではかなりの負担になる。医療保険に頼る前に、公的な健康保険制度をよく理解することが大事だ。70歳以上の方で一般的な年金収入の方は、入院しても高額療養費制度でひと月の上限額は世帯ごとで5万7600円だ。医療保険に頼る部分はどのくらいなのか計算したら、わかるはずだ。保険にお金をかけるのではなく、何にでも使えるお金を準備しておく方がよいことがわかるだろう。

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point#3
老後資金も健康も、若いうちから準備する。

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健康も老後資金も若い頃の習慣で大きく変わる。複利の効果を得たいのならば、若い時から準備しておこう。photo: baona-istock

健康を維持することでも、老後の不安を解消できる。健全な心身が保てなくなって働けない、家族の介護で働けないといったことが起きないように予防するのが重要だ。生活習慣改善のポイントは、悪いもの(有害な飲食料)を摂らないこと、規則正しい生活をすること、そして定期的な運動をすることだ。ストレッチをするだけでも大きく違う。

老後資金も健康も、若いうちから準備することで大きく差が開く。老後資金は、早く始めれば始めただけ少ない資金で準備できるからだ。少額で大きく増やすには、複利の効果を利用することだ。複利効果とは、運用で得た収益を当初の元本にプラスして再び投資することだ。複利効果により利益が利益を生み、ふくらんでいく効果が生まれる。たとえば毎月3万円を投資信託で5年間積立した場合、平均リターンを7%で計算すると約214万円。元本は、180万円だから、効果は大きい。それを20年続けると元本は720万円だが約1562万円まで増える。月額4万5000円を年利8%、35年複利で増やせば1億円も貯められる。

複利の効果は、年数が長ければ長いほど雪だるま式に増える。なので、少額でもよいので早く始めることが重要だ。このように書くと必ず「若い人でないとできないことですね」というご意見をいただくが、50~60代の方ほど安全にお金を増やす技術を習得する必要がある。

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60代からでも「下流老人」は回避できる!

年金の支給額を考えると、「住む所が確保できている」というのは前提だ。つまり、家計の中で最もウェイトが高い住宅費は、自分で準備することが前提にあり、しかもそこには介護費用は含まれていない。しかし、お金を増やしながら使えば、お金は長持ちする。年利5%でお金を増やせるようになっていれば、2%分を使ってしまっても、3%で運用しているのと同じ効果が得られる。「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」のことを下流老人というが、現役の頃、年収700万円あっても、パートナーの介護で下流老人化してしまうケースもある。60代からでも、間に合わないことはない。自分が80代になった頃に使うお金を増やすことはできるからだ。

川畑明美

ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。
www.akemikawabata.com

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text: Akemi Kawabata

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