乳がん患者の生活を変革する、フランスのキーパーソン。

Society & Business 2021.11.09

10年前に非営利団体「ローズアップ」を創業した女性は、いま、乳がんをめぐる運動のキーパーソンとなっている。

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非営利団体ローズアップ創始者のセリーヌ・リス=ラウ。photo : Delphine Jouandeau

セリーヌ・リス=ラウは今月、自ら立ち上げた非営利団体「ローズアップ(RoseUp)」の10周年を迎える。それまでは週刊誌「レクスプレス」で部長を務めていた。しかし2008年に乳がんを診断され、方向転換する。病気に関する情報不足を痛感した彼女は、乳がん患者の生活を変革するべく、2011年に雑誌を作ることを決意する。こうしてフランス初の女性向けコミュニティ雑誌「ローズ・マガジン(Rose Magazine)」が誕生した。半年ごとに刊行されるフリーマガジンで、発行部数は18万部に上る。

正真正銘の社会情報誌

「コンセプトは、乳がんを患う女性たち向けの、でも彼女たちを病人扱いしない、正真正銘の社会情報誌を作ることでした」とセリーヌは語る。「メッセージは非常に明快です。がん患者は死の宣告をされているという思い込みをなくそう、ということ。みな生きている。それぞれに生活があり、人生設計や交友関係、性生活を送っている人たちです。がんを患っている人、あるいは過去にがんを患った人は何もできないという考えは捨てましょうということです」

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欠かせない存在

ローズアップはフェイスブック、インスタグラム、ツイッターを合わせて、SNSで3万5000人のフォロワーを持つ。雑誌創刊後、団体はパリとボルドーにがんを患う女性たちのための「バラ色の家」を設立。患者を支援するための地道な活動を続けながら、ウィッグ費用の公的医療保険負担の増額を目指す働きかけを行い、2倍の増額を実現した。10年間でローズアップは乳がん患者支援ネットワークにおいて欠かせない存在となった。

タブーの終焉?

「私たちが雑誌の創刊号を発行した2011年には、がんに罹患した人たちに顔を出して証言してもらうことはほとんど不可能でした。校了を数週間後に控えた段階でも、手元にはまだ表紙の写真がない。誰もカメラの前に立ちたがらなかったのです。当時は、がんを罹った経験を公にしている人は、政治家にも、企業のオーナーにもひとりもいませんでした。沈黙の掟が社会を完全に覆っていたのです」とセリーヌは振り返る。

それ以後、フランス社会は進歩した。ヴィアヴォイス(Viavoice)が実施した調査によると、フランス人の67%が、がんはタブーではなくなりつつあると考えている。「自分のがんの進行具合を見せるために、インスタグラムに自撮り写真を投稿する若い女性もいます。10年前には考えられないことでした」

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忘れられる権利のための闘い

「ローズアップは、死ではなく生について話すことを目指した政治的なユートピアです」と創業者のセリーヌは強調する。子どもの頃は家族が関わる政治活動に熱心に参加した。彼女は、ローズアップを思いやりのある、実践的な取り組みを行う団体にしたいと望んでいる。その思いから、がん患者の“忘れられる権利”を擁護する闘いに着手した。「がん患者が社会から排除されることが納得できませんでした。以前は治療が終了してから20年経っても、保険会社ががんの既往歴について質問したものです」

2017年に忘れられる権利に関する法律が成立したが、彼女にとってはまだ十分ではない。「現在、若年の患者については5年経ったら忘れられる権利が認められますが、そのほかの患者は10年です。すべてのがん患者に対して5年後の権利が認められるようにすることが、マクロン大統領の公約のひとつでした。私たちはこの件について大統領に問いただしていくつもりです」

ネットを介した支援

ローズアップは今後も「公益活動の最前線」に立って事業に取り組んでいくつもりだ。「ロックダウン中には、患者たちの声を届ける活動や、がん手術が優先事項とされるよう働きかけました」。2022年にはヴァーチャルな「ピンクの家」が実現する予定。インターネットを介してフランス全国のがん患者に寄り添えるようになるという。

 

text:Emilie Lopes (madame.lefigaro.fr)

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